理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1161
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生活環境支援系理学療法
精神科病棟における転倒事故の多施設調査
*細井 匠牧野 英一郎
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キーワード: 精神科, 転倒, 予防対策
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抄録
【背景】現在,全国約33万人の精神科病院在院患者のうち65歳以上の割合は39.0%に達している.精神科病院では高齢化に伴い転倒事故が増加している.しかし,実際に精神科病院での転倒事故を調査した例は少なく,全国の精神科在院患者の転倒事故の実態については明らかにされていない.そこで今回、全国的な実態調査を行う前の予備調査として,複数の精神科病院に対して調査を行ったので報告する.
【目的】予備調査として,東京都近郊の精神科病床を有する病院の転倒事故発生状況を調査し,転倒事故の実態と転倒予防対策の実施状況を把握すること.
【方法】2005年10月初旬,東京都近郊の精神科病床を有する4施設の作業療法士に対して郵送自記式質問紙調査を行った.内容は精神科病床数,最も多い精神疾患,過去1年間の転倒者数と転倒件数,外傷例と骨折例,転倒予防対策実施の有無である.転倒予防対策を実施している場合はその内容と中心的な役割の職種を尋ね,実施していない場合はその理由を尋ねた.また,実際の事例を各施設3例ずつ紹介してもらった.
【結果】転倒した人数は回答が得られなかったが,転倒件数はすべての施設で回答が得られた.各施設の転倒件数を病床数で除し,1床に対しての転倒件数を比率で表すと0.16~0.39であった.外傷例は25.7%~44.1%,骨折例は4.1%~11.4%であった.転倒予防対策は2施設で行われており,内容は室内環境整備と,履き物の指導のみであり,中心となる職種は看護師,または作業療法士であった.一方,予防対策未実施の2施設では,その理由を「必要性を感じない」「スタッフの意識が低い」としていた.事例報告は計12例(男性6名,女性6名)が寄せられ,長期入院中の50~60歳代の転倒が多かった.外傷例は8例,骨折例は3例であった.転倒の要因は「身体機能の低下」が54.5%で最も多かった.
【考察】本調査で得られた結果は無視できるものではない.事例報告では,転倒している方は50代から60代の長期入院患者に集中している.今後,この方たちが院内で高齢化していくことが予想され,出来るだけ早期に転倒予防対策を実施する必要性を感じる.しかし,実際に転倒予防対策を実施している施設は半数であり,その内容も外的因子に対するものに限られている.事例報告における転倒の要因では「身体機能の低下」が最多であり,身体機能の向上を目的とした内的因子へのアプローチが必要だが,実施している施設はなかった.転倒事故を予防するためには外的因子と内的因子の両面へ多角的に介入することが重要であり,理学療法士の必要性は高い.しかし,現実には理学療法士を配置することが困難な状況があり,精神科勤務の看護師や作業療法士に身体機能向上を目的とした転倒予防対策の必要性を理解し,実施してもらうことが必要であろう.
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© 2006 日本理学療法士協会
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