抄録
【目的】 生活習慣病は,虚血性心疾患や脳血管障害など死亡原因の多くを占める疾患を惹起する疾病である.そのため医療現場における生活習慣病予防は重要な課題の1つだと考えられている.当院精神科に入院中の患者の中には,著明な身体機能低下がなくとも病院内や病室にこもりがちの人や,必要量以上の飲食物を摂取する人がおり,生活習慣病になるリスクが高いと感じられた.今回,精神科病棟において身体面への配慮や関心が低いように感じ,精神科入院患者の生活習慣病の罹患率を調査し,その特徴について検討した.
【方法】 対象は2005年7月末日に当院精神科に入院中の患者191名(M98名,F93名),平均年齢61.9±12.9歳である.調査項目は身長と体重,血圧と血液検査結果(総コレステロール,中性脂肪,HDLコレステロール,空腹時血糖)を調査した.生活習慣病の判断基準は,BMI,血圧,血液検査結果のどれか1つにでも該当した場合とした.他に抗精神病薬の処方量と在院日数も調査した.
【結果】 生活習慣病の判断基準に該当したのは49%(M64%,F36%)であった.病棟別では,開放病棟患者のうち62%,閉鎖病棟51%,療養型病棟31%が該当した.病棟別の男女の罹患率は,男性のみ閉鎖病棟に比べ開放病棟で有意に多かった(p>0.05).生活習慣病と判断された中でBMI25kg/m2
以上の人は、開放病棟患者のうち52%,閉鎖病棟33%,療養型病棟17%であった.抗精神病薬の種類や量による体重への影響はみられなかった.在院日数は平均3319日(1~17004日)であった.
【考察】 閉鎖病棟に比べて開放病棟の男性に生活習慣病が多い主要因は,開放病棟では病院食以外の食物を摂取できることだと思われる.一般に精神疾患患者の活動の自由度が高くなると肥満者が増加するといわれている.また抗精神病薬の副作用により,摂食行動の増加や脂肪の蓄積が増える場合がある.療養型病棟と閉鎖病棟は,限られた空間の中でしか活動できない.これに比べ開放病棟は活動の自由度が高いため,不規則な食習慣となりやすく,肥満を呈する患者が多数いる.精神科では,活動の自由度と運動量は必ずしも同一ではない場合があり,肥満に陥り易い傾向があると考られた.
【PT介入の必要性】 一般に精神疾患患者の特徴として,不活発,身体への関心度の低さ,食生活も含めた日常生活行動の自己管理能力の低さがある.また入院の長期化は活動の制限や陰性症状による意欲低下を引き起こし,廃用症候群や生活習慣病のきっかけとなり易い.先行研究でもPT介入により身体機能面に関心を示す患者も多くいることが明らかであり,これらの特徴をふまえた生活習慣病の予防対策に積極的に関与したい.