理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1174
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生活環境支援系理学療法
消防職員における腰痛実態調査
*薄葉 航洋小松 泰喜上内 哲男武藤 芳照
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抄録

【目的】職業性腰痛症は、過酷な肉体労働だけでなく精神的要因や個人的要因、職場環境などと深く関連することから、広範な年齢層、業種に発症しているとされる。中でも消防職員は、精神的にも緊張した中での勤務であり、その特殊性を考えれば腰痛症の発症しやすい状況である。近年、消防職員の年齢構成や救急搬送件数増加に伴う救急需要の変化など、消防を取り巻く情勢も変化し、腰痛症が増加していると近隣消防署より報告を受けた。そこで、消防職員の腰痛発症要因やその身体・精神的特徴について明らかにすることを目的に、質問紙法による腰痛発生状況の調査を実施したので報告する。

【方法】新宿区内A消防署勤務の職員80名を対象に、腰痛症に関する調査を質問紙法にて実施した。質問紙は自記式とし、基本情報、消防・救急動作頻度・時間等、健康状態、腰痛の現状等について調査し、腰痛症の有無と発症要因、さらに職場環境および勤務形態などについて検討した。尚、統計学的処理はSPSS ver.12 を使用し、有意水準を5%未満とした。

【結果】職員の平均在職期間は20±14年(0.5~47年)であり、調査時の腰痛発症率は39%であった。在職期間別の腰痛発症率では、在職期間5年以上10年未満で40%、20年以上25年未満で64%と高率に発症し、その傾向は二峰性を示した。腰痛発生の原因動作について複数回答を求めたところ、中腰のとき21名(26%)、重量物の搬送21名(26%)、車の運転10名(13%)の順で多かった。健康状態では、20年未満の在職者(以下短期群)にて、腰痛症がある者に「身体に不安がある」、「不定愁訴がある」が有意に多かった(p<0.05)。短期群に対し、在職期間20年以上の在職者(以下長期群)では腰痛症による欠勤の経験がある者が多く認められ、「下肢に痺れがある」、「歩行に影響がある」など比較的重度の腰痛症を示す者が多い傾向にあった。

【考察】腰痛発症率は一般的に高齢になるほど増加するため、本調査においても在職20年以上25年未満に多かった。しかし、10年未満の職員にも多い特徴も認められた。名古屋市消防局を対象にした斉藤らの調査でも同様の傾向がみられ、若年者の腰痛は経験不足に伴うスキルの未熟さと関連があるとしているが、今回は腰痛の発症要因の特定には至らなかった。本調査から、短期群では腰痛症は精神的な影響が出現し、長期群では身体への影響が表れることが示された。

【まとめ】これらのことより、消防職員の腰痛予防を指導する上で、経験の浅い職員には動作の指導およびメンタルケア、長期在職者には継続的な介入が必要であることが示唆された。今後、より質的な評価を行い、腰痛の発症要因の特定や精神面との関連を調査することが必要である。


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