理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1175
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生活環境支援系理学療法
健康増進への理学療法士の関わり
こころの健康を目的として
*溝田 勝彦
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抄録

【目的】近年,健康増進に関する講習会等に理学療法士が関わる機会が増えているが,身体的健康を目的とした内容が多いと思われる。今回,県の生涯学習講座を担当する機会を得,こころの健康も目的として講義と実習を行い,その効果を確認するために講座の前後に質問紙調査を実施したので報告する。
【方法】質問紙の内容は,性別・年齢,肩痛・腰痛の有無と程度(VAS,0~10),ストレスの自覚症状(0~70),POMS短縮版(気分の評価法)である。開始前に全受講者35名に質問紙を配布し,講座の前後に記入してもらった。講座の時間は90分で,身体の健康を目的とした転倒予防の講義と,こころの健康を目的としたストレスマネジメントの講義・6分程の実習(セルフ・リラクセーション)を行った。
【結果】受講者全員から回答が得られた(完全回答は28名)。男性26名,女性9名,平均年齢は68.9歳であった。統計処理には対応のあるt-検定を用い,有意水準は5%とした。その結果,肩痛(16名)は3.75→1.78,腰痛(18名)は3.76→1.98,ストレスの自覚症状は22.10→19.90と,いずれも有意に軽減した。POMSは一時的な気分・感情の状態を測定するもので,「緊張-不安(T-A)」「抑うつ-落ち込み(D)」「怒り-敵意(A-H)」「活気(V)」「疲労(F)」「混乱(C)」の6つの気分尺度を同時に測定できる。素得点をT得点に変換し比較した結果,T-Aは43.71→41.57,A-Hは46.79→44.71,Fは42.93→41.00,Cは47.68→44.68となり有意な低下が認められた。D(46.29→45.57)とV(49.14→49.54)では有意差は認められなかった。
【考察】健康の概念は,身体的側面のみでなく精神的側面も含んでいる(WHO)。気分の落ち込みや心理的ストレスは,閉じこもりや意欲の減退,更には身体反応まで惹起する。高齢者の活動水準を高めるためには,運動能力の維持・改善も重要であるが,こころの健康へのとり組みも重要である。今回,特にこころの健康を得ることを目的とし,一人で家庭でも実施できるセルフ・リラクセーションの実習を取り入れた。その結果,肩痛や腰痛の軽減と同時に,ストレスやPOMSの4下位尺度において効果が認められた。DとVで有意差が認められなかったのは,もともと元気で活動性の高い人達が受講しているからではないかと考える。対照群がないため,実習のみの効果とは断定できないが,短時間でよりよい心の状態が得られたことから,こころの健康への一手段として有効であることが示唆された。 手軽に実施可能なセルフ・リラクセーションを日常生活に取り入れることにより,持続的な効果が得られれば,健康増進の一助となると考える。

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© 2006 日本理学療法士協会
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