抄録
【目的】
臨床実習では,対人関係などの情意領域に問題を持つ学生について多くの指摘がなされており,具体的な対応についても試みがなされている.学内でも対人関係について学習の機会を設定しているが,介入による判断が難しいことを感じる.今回,学生の性格特性を把握し今後の指導に役立てることを目的に東大式エゴグラム(以下TEGと略す)と他者評価である性格フィードバックを実施し,評価実習成績との関連について検討したところ興味ある結果を得たので報告する.
【対象と方法】
対象は,平成15年7月に本学院理学療法学科に在学した2年次生で臨床実習(評価実習)を終了した40名(男性17名,女性23名,平均年齢20.8±2.8歳)である.方法は,TEGを実施後に性格フィードバックを実施した.性格フィードバックはTEGと同じ五つの心について,周りからみた自分を教えてもらうもので,自分のCP(批判的な親心),NP(養育的な親心),A(理想的な大人心),FC(自由な子供心),AC(従順な子供心)について10名から点数をつけてフィードバックし,その結果を自分からみた自分と比べるものである.臨床実習(評価実習)成績(優・良・可・保留)を優良群と可保留群に分け,性格フィードバックにより得られた各自我状態の平均値を算出しt検定(有意水準5%未満)を行い検討した.尚,調査に際しては学生に事前説明を行い了解を得て実施した.
【結果】
成績優良群では自己評価と他者評価のACに有意差があった(p<0.05).他者評価はNPを最高点としてどの得点も平均的に高くACが低い台形型で医療従事者に向くと言われる型を示している.成績可保留群ではNP・A・FC・ACで有意差があった(p<0.05).自己評価と他者評価ともNP・FC・ACが高くCP・Aが低いN型を示している.この型は人に優しく世話好きな面を持つがAが低いことにより依存的で現実に即した行動ができない面を併せ持っていると言われている.
【考察】
成績優良群では学内成績の良い学生が多く,他者評価が高くなった要因の一つと考える.また,これまでの学習経験により医療職に向くとされる良好な自我が実習前に形成されてきているとも考える.成績可保留群ではNP・A・FCに有意差があり,他者が見ているより自己評価が高くなっている.これは,自分で自覚しつつも自己評価が高いか,他人からどう見られているかの意識が低いことによると考える.結果としてNPが高く養育的な気持ちはあるが,Aの大人の面が低いため相手に誤解されやすく,臨床実習指導者と到達目標などに認識のズレが生じ易く臨床実習成績が伸びない一因になっていると思われる.以上のことから,TEGと合わせ性格フィードバックを行うことは,学生が自分自身の性格特性を知り,また他者がどう見ているのかを知ることができ,自己変容につなげるための導入の一つになると思われる.