理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 471
会議情報

理学療法基礎系
末梢神経修復における肝細胞増殖因子の作用
ラットヒラメ筋における発現解析
*田中 正二立野 勝彦宮田 卓也
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】骨格筋は環境への適応能力を有しており,神経筋接合部における神経の脱落と新生もその一つであるが,その適応能力は末梢神経損傷後の修復過程において重要な役割を果たしている.我々はこれまでに,廃用性萎縮筋に対して再荷重刺激を加えることで,筋衛星細胞と見られる単核細胞の活性化と肝細胞増殖因子(HGF)発現量が増加すること示した.また近年,HGFが神経筋接合部におけるアセチルコリンレセプターの凝集を促進することが報告され,神経栄養因子としての機能が示唆された.現在,末梢神経損傷に対する理学療法の科学的な根拠が示されているとは言い難いが,骨格筋を刺激することでHGFの産生を促進し,末梢神経の修復を促進できることが明らかとなれば,理学療法の有用性が証明できると考える.そこで本研究では,末梢神経収縮機構におけるHGFの発現と筋衛星細胞の活性化の関連を明らかにすることを目的とした.

【方法】8週齢Sprague-Dawley ラットの脛骨神経は外科的に切断し,0,1,3,7,14日後にヒラメ筋を採取した.ただし,増殖中の細胞を検出するために,組織採取の6時間前にブロモデオキシリウリジン(BrdU)を腹腔内に投与し,増殖細胞のDNAに取り込ませた.組織は急速凍結し,解析まで-80°Cで保存した.そして組織学的変化を観察するためにH-E染色およびMyosin ATP染色を施した.また,HGF,MyoD,BrdU,神経筋接合部の局在を検出するために蛍光抗体法にて標識し,蛍光顕微鏡にて検出した.ヒラメ筋に含まれるHGF蛋白量は酵素結合免疫吸着定量法(ELISA法)を用いて検出し,統計学的解析を行った.なお, 本研究は金沢大学動物実験委員会承認(承認番号060588号)のもとに実施した.

【結果】脱神経後には筋線維の円形変化及びH-E染色に対する染色性の低下,筋線維タイプの速筋化が観察された.HGF,BrdU,MyoDの陽性反応は神経筋接合部において観察された.HGF蛋白量は脱神経筋において増加が認められた.

【考察】脱神経早期には形態学的な退行反応が強く現れる時期であり,HGFの発現も活発ではない.しかし,数日後には再神経筋へ神経軸索を伸長させるために,神経誘導因子の一つであるHGFが活発に産生されたと考えられる.神経筋接合部の単核細胞にHGF,BrdU,MyoDの陽性反応が観察され,HGFは神経筋接合部に存在する筋衛星細胞と考えられる細胞が産生していると考えられた.これらの結果は,神経筋接合部に存在する筋衛星細胞がHGFを産生することでオートクリンに作用すると同時に,神経の修復に関与していること示唆していた.
著者関連情報
© 2007 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top