抄録
【目的】卵巣摘出(OVX)により骨量減少とともに骨強度の低下が起こるため,OVXマウスは骨量減少モデルとして広く使用されている.しかし,骨強度の低下に関する力学的特性の変化について言及しているものは少ない.本研究は,OVXマウスにおける骨の力学的特性の経時的変化を調査することを目的とした.
【方法】5週齢,雌性ICRマウス40匹を対象とした.対象をランダムに4群(10匹/群)に分け,2群にSHAM術,残りの2群にOVX術を施した.術後50日目と100日目の各時点でSHAM群とOVX群のそれぞれ1群ずつを屠殺した.屠殺後,全てのマウスの大腿骨および脛骨を取り出し,骨長および中央部骨幅を測定した.また,3点曲げ強度試験を実施し,骨の力学的特性(最大荷重値,最大応力,歪み,弾性率)を算出した.統計学的解析は,大腿骨,脛骨それぞれについて,50日目および100日目におけるOVXの骨の力学的特性に対する影響をみるために対応のないt検定を用いた.また,OVXの影響に加えて力学的特性に対する期間の影響をみるため二元配置分散分析を行った.p<0.05で有意差有りとした.なお,本実験は広島大学医学部付属動物実験社の承認を得て行った.
【結果】50日目の時点では,OVX群の最終体重はSHAM群のそれよりも有意に高値であった.また,大腿骨及び脛骨の骨長はOVX群でSHAM群よりも有意に高値であった.100日目の時点では,OVX群の最終体重はSHAM群のそれよりも有意に高値であった.大腿骨では,骨長と骨幅においては,OVX群はSHAM群に比して有意に高値を示し,最大応力と弾性率においては,OVX群はSHAM群に比して有意に低値であった.脛骨では,骨長においては,OVX群はSHAM群に比して有意に高値を示し,最大荷重値と最大応力おいては,OVX群はSHAM群に比して有意に低値であった.
【考察】考察:本研究では,最大荷重値及び最大応力は,大腿骨,脛骨ともSHAM群よりもOVX群で低値を示し,最大応力に対しては100日目時点において有意なさが認められた.また,大腿骨,脛骨とも弾性率はSHAM群よりもOVX群で低値を示し,大腿骨に対して100日目時点では有意な差が示された.これらのことから,OVXにより最大荷重値及び最大応力は低下し,歪みに差が認められないことから,靭性の低下が考えられる.理論上,靭性を増加させるためには最大応力が高く,弾性率が低いことが必要である.本研究の結果は,靭性の減少度を少なくするために,OVX群は弾性率の低下で対応していることが示唆された.また,OVX群では骨長と骨径(骨幅)が有意に増加しており,骨量減少による強度の低下に形状を変えることにより力学的に対応していることも示された.
【まとめ】OVX群では骨量減少により最大荷重値及び最大応力の低下が起こることに加え,弾性率を低下させることで強度を保とうとすることが示された.