抄録
【目的】立位バランスの評価・測定法として重心動揺計を用いることは客観的である.一方,臨床的に行う立位バランス検査は,所定の肢位を保持または動作が遂行可能かといった主観的な判定となる.いくつかの臨床的な立位バランス検査が,重心動揺計によってどのように表されるかといった特徴を知っておけば,妥当的な解釈も可能となる.そこで重心動揺計を用いて,臨床的に行われるいくつかの立位バランス検査として肢位・動作を行わせ,計測した重心動揺パラメータの特徴を把握することを目的とした.
【対象と方法】対象は健常成人24名(男性14名,女性10名)とした.対象の平均年齢24.8±6.5歳,平均身長164.6±6.8cm,平均体重59.5±10.4kgであった.測定肢位は,一般に用いられるバランス検査である立位保持(開脚・閉脚),閉眼立位,Mann肢位,片脚立位,爪先立ち,Step立位(前・横),立位への外乱負荷,振り向き動作,Cross Test(縦・横)とした.これらの肢位・動作遂行中に重心動揺を計測した.重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用して計測時間は10秒間とした.すべて裸足で行い,視標は用いずに上肢は体側に下垂させた.閉脚立位,Mann肢位,片脚立位,Step立位以外は10cm開脚とした.Mann肢位で前側になる下肢,片脚立位で立脚側になる下肢は被験者の任意とした.爪先立ちはわずかでも踵が床から離れればよいとした.Step立位はModified Step Test(橋立ら,2004)に準じて行った.外乱負荷は支柱に紐で吊り下げた重りを45°の高さから自由落下させることで被験者の後方から加えた.振り向き動作とCross Testはメトロノームを使用し,時間を一定にして行った.重心動揺の計測パラメータはLNG,SD-X,SD-Y,ENV.AREA,REC.AREA,RMS.AREA,SD.AREAとした.これら,測定肢位・動作ごとに計測パラメータの関係をカテゴリカル主成分分析によって検討した.
【結果】LNG・ENV.AREA・REC.AREA・RMS.AREA・SD.AREAでは,どの肢位・動作においても第1主成分が高い値を示し,第2主成分においても特徴的な傾向を示さなかった.SD-XとSD-Yにおいては第2主成分において傾向が異なり,SD-XにおいてはCross Test(縦・横)・振り向き動作・Mann肢位が,SD-YにおいてはCross Test(縦・横)・振り向き動作・Mann肢位・爪先立ち・Step立位(横)が高い値を示した.
【考察】今回の分析では,一般的に指標とされるLNGに加えて,左右または前後方向の重心動揺に関する動的な評価も必要であることがわかった.当然ながら,立位バランス検査は肢位または動作といった静的・動的な面からの評価が必要であるが,重心動揺の面からも根拠を持って明確に表すことができた.中でもMann肢位が特徴的であったことは興味深い.今後,この詳細について追究していく必要がある.