理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 531
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理学療法基礎系
歩行観察中の皮質脊髄路の興奮性変化
*高橋 真上林 清孝中島 剛赤居 正美中澤 公孝
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抄録

【目的】他者の上肢の運動観察中には、観察者の大脳皮質運動野に活動が生じ、さらに実際の運動遂行時と同様の時間関係で運動野が活動することが報告されている。最近では、この事実を根拠に運動観察を用いて、運動学習を行うという試みもなされ始めている。一方、下肢の運動観察に関する報告は少なく、さらに、歩行運動観察中の運動野の活動に関してはほとんどわかっていない。脳機能イメージングを用いて、運動観察と類似した歩行運動のイメージ中の脳活動を検討した研究が散見されるが、時間分解能の問題があり、歩行周期との対応までには至っていない。そこで、本研究では、他者の歩行運動を観察している時に、経頭蓋磁気刺激法を用いて、観察者の皮質脊髄路(運動野)にどのような活動が生じるのかについて検討した。
【方法】被験者は健常成人7名(年齢28-33歳)であった.被検者には実験の目的と方法を十分に説明し,同意を得て実験を行なった.また、本実験は倫理審査委員会の承認を得て、実施した。被験者は座位で安静を保ち、正面のトレッドミル上で他者が歩行している姿(右外側面)を注視した。その際、特に下肢の動きに注目するように指示した。歩行スピードは2km/hで、1歩行周期は約2秒であった。歩行観察中に経頭蓋磁気刺激を用いて、運動誘発電位(MEP)を記録し、皮質脊髄路の興奮性を検討した。被検筋は右側の前脛骨筋,ヒラメ筋とし、表面電極法により筋電図を記録した。経頭蓋磁気刺激はMagstim200を使用し、ダブルコーンコイルを用いた。刺激は約6秒ごとに与え、歩行の各周期にランダムに刺激が入るように設定し、合計100発程度の刺激を行った。安静時のMEPを100%とし、歩行中のMEPを標準化した。さらに、1歩行周期を10フェーズに分割し、それぞれのフェーズで平均値を求めた。
【結果】歩行観察中に、前脛骨筋、ヒラメ筋から記録されたMEPは全歩行周期で約150~200%に増大した。さらに、歩行周期に応じた変化はなく、一様にMEPは増大した。また、歩行観察中には筋活動はなく、安静が保たれていた。
【考察】運動観察中の脊髄レベルでの変化は本研究の結果からは不明だが、先行研究からMEPは運動野の活動を主に反映していると考えられる。したがって、本研究で得られた結果は、歩行観察中には実際に筋が活動するタイミングで観察者の運動野が活動するというよりは、全歩行周期に渡って、活動が増大していることを示唆する。これは、上肢の運動観察の場合と異なるが、歩行のような自動運動に特異的なものであると考えられる。すなわち、歩き始めや障害物を跨ぐといった場合には皮質が大きく関与するが、通常の歩行時には運動野から(中脳歩行誘発野を介して)脊髄の中枢パターン発生器に入力を持続的に送ることで歩行を制御していることを反映した結果であると考えられる。

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© 2007 日本理学療法士協会
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