理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
行政理学療法士の役割機能の検討
─地域包括ケアにおける医療と地域ケアの連携から考える─
田中 康之逢坂 伸子小森 昌彦
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p. Ge0080

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抄録

【はじめに、目的】 本研究は、主に市町村に勤務する理学療法士、作業療法士(以下PT、OT)の業務実態と役割機能を明らかにし、地域保健へ寄与することを目的に平成8年度より継続的に実施している。平成22年度は「地域包括ケアの推進」に焦点を当て、1次調査として行政PT、OTの医療と地域ケアとの連携への関与状況を調査し、その結果から先駆的な活動をしている事例を2次調査として集約することで、今後の地域包括ケアにおける医療と地域ケアの連携に関わる行政PT、OTの役割について提言を行うことを目的とした。なお、本研究は(社)日本理学療法士協会と(社)日本作業療法士協会が(財)日本公衆衛生協会の助成を受け、平成22年度地域保健総合推進事業として実施した。【方法】 1次調査は、両協会に所属し行政機関に勤務している会員の職場755施設へ調査票を郵送配付し、FAXにて回収した。なお、より多くの回答を得るため、各職場内の非会員のPT,OTへも複写にて調査票の配付を依頼したため、最終的な調査票配付総数は不明である。設問として自治体名、職種、職歴、役職、活動領域、そして医療と地域ケアとの連携への関わり方の現状や今後の展望について「(1)医療機関と本人家族をつなぐ」「(2)医療機関と地域ケアのコーディネーターをつなぐ」「(3)医療機関と住民をつなぐ」「(4)医療機関と在宅サービスをつなぐ」「(5)医療と地域の連携に関する仕組みづくり」という5つのモデルとそれぞれの具体例を提示し、回答を得た。2次調査は、1次調査にて提示したモデルの(1)から(5)の全てにおいて「連携の仕組みづくりに携っている」と回答していた事例を先駆的事例として聞き取り調査を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 1次調査は調査票に調査説明文書を同封し、了承を得られた場合のみ回答をしてもらうこととした。2次調査は調査依頼時に説明を行い、同意を得られた場合のみ調査に協力をして頂く手続きをとった。【結果】 1次調査の回収数は273件。有効回答数は263通。有効回答者の職種はPTが165名(62.7%)、OTが98名(37.3%)。自治体での勤務経験は10年以下が118名(44.9%)、11年以上が145名(55.1%)。役職有りが127名(48.3%)、無しが136名(51.7%)。携わっている領域は、高齢者領域が148名(56.3%)、障害者領域が142名(54.0%)、子ども子育て施策が78名(29.7%)であった(複数回答)。設問に示した各モデルにおける「連携の仕組み作り」に携わっているとの回答は「(1)医療機関と本人家族をつなぐ」は50名(19.0%)、「(2)医療機関と地域ケアのコーディネーターをつなぐ」は51名(19.4%)、「(3)医療機関と住民をつなぐ」は36名(13.7%)、「(4)医療機関と在宅サービスをつなぐ」は54名(20.5%)、「(5)医療と地域の連携に関する仕組みづくり」71名(27.0)であった。行政として最も力を入れるべきとされたのは「医療と地域の連携に関する仕組みづくり」の143名(54.4%)であり、勤務年数、役職有無による統計的な有意差は認められなかった。1次調査の結果から先駆的事例として判断し、調査に協力が得られた2市2県に対して2次調査を行った結果、実効性のある地域包括ケアシステムづくりには、各種関係機関や関係者と効果的に連携し、ネットワークを作り、成熟した地域主体のシステムへの支援・連携・協働へと移行させていくことが重要であり、その為に行政PT、OTの役割としては「顔の見える関係をつくること」「地域課題を的確に捉えること」「関係者同士を結びつける工夫、配慮が必要であること」等が伺えた。【考察】 今回提示した医療と地域ケアとの連携のモデルについては、多くは仕組みづくりまで関われていない現状が伺えた。しかし、本来行政として目指すべきは「医療と地域ケアとの連携に関わる仕組み作りである」とする割合が最も高かった。これらのことから行政PT、OTには、「行政」として地域全体を視野に入れた医療と地域ケアとの連携の構築に関わる必要性が認識されていると考えられた。  2次調査として聞き取った事例で共通した重要な要素は、行政の担当者が医療と地域ケアの橋渡し役になっていることである。行政の担当者が医療職のPT、OTであることで、医療関係者と共通認識を持ちやすく、地域ケアの現状をわかりやすく医療関係者へ伝えることができていると考えられた。行政PT、OTは、医療と地域ケアの双方に精通することができ、個から出発した地域課題を地域全体の仕組みづくりへ繋ぐ必要性を認識していることからも、医療と地域ケアとの連携づくりに寄与できるものと示唆される。【理学療法学研究としての意義】 地域包括ケアシステムの議論が進む中、理学療法士が地域保健行政へと職域を広げ、地域のコーディネーターとして多職種と連携を図り事業展開を行なう上で有用な調査であると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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