理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 535
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理学療法基礎系
妊産婦の歩行分析
腰痛予防のための基礎研究
*小田桐 愛三浦 雅史吉俣 美登利
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キーワード: 妊産婦, 歩行, 基礎研究
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抄録

【目的】本研究の目的は、妊産婦の歩行における腰部の動きを分析し、妊娠によって発症すると思われる腰痛やこむら返りのような下腿痛のメカニズムを明らかにするための基礎研究を行うことである。
【方法】対象は青森市内に住む妊娠していない健康な成人女性(以下、非妊産婦)と妊娠している健康な成人妊婦(以下、妊産婦)とした。対象へはインフォームドコンセントを行い、本研究に了承の得られた非妊産婦と妊産婦へ協力して頂いた。なお、本研究は本学倫理委員会の了承を得て実施した。歩行分析では、対象に赤外線反射マーカを左右の肩峰、上前腸骨棘、大腿骨大転子、膝蓋骨中央の高さで膝蓋骨の厚さを除く膝関節前後の中点、外果、第5中足骨と第1・3・5腰椎棘突起に貼付した。歩行分析は、三次元動作解析装置とビデオカメラ4台を使用し、それぞれのビデオカメラで得られた画像を分析した。歩行速度は自由速度とした。
【結果】協力の得られた妊産婦は9名であった。妊産婦の妊娠週数は31.3±4.4週であった。また、非妊産婦は12名とした。身長、体重とも両者間に有意差はなかった。歩行分析の結果、歩行速度及び腰椎前彎角度は両者で有意な差はなかった。骨盤回旋角度は非妊産婦の方が大きく、有意差を認めた(p<0.05)。歩行中の足関節底背屈は妊産婦で有意に減少していた(p<0.01)。
【考察】妊産婦の姿勢や歩行を分析している先行研究では妊娠中の腰椎の変化について意見が散見しており、脊柱の彎曲状態が腰痛に明らかに影響を与えたと言及したものはない。しかし、妊娠では胎児の成長に伴い、体重心が前下方に移動する。それに伴って腰椎の前彎が増強し、腰痛をひき起こすと推測される。本研究による歩行分析では、非妊産婦と妊産婦間に腰椎前彎角度の有意な差は認められなかった。歩行時の腰椎の変化を詳細に分析するためには妊産婦個人の姿勢変化を考慮し、測定時期や測定方法を再考する必要があると思われた。一方、歩行時の足関節底背屈は妊産婦で有意に減少していた。これは妊娠中に増加した体重を足関節底屈によって持ち上げなければ前進できないため、妊娠前よりも筋力が必要になると考えられる。歩行速度を保ち、体重心を安定させて歩くため足関節底屈が減少したと考えられた。また、こむら返りのような下腿三頭筋の痛みは足関節底屈による下腿三頭筋の筋疲労と関連しているのではないかと考えられた。 Wenhuaらによると、妊産婦の歩行は非妊産婦に似ているが骨盤回旋は減少していると述べられていた。本研究においても、骨盤回旋は有意に妊産婦が減少していた。しかし、今回測定した項目からは、骨盤回旋減少の要因を明らかするには至らなかった。今後、歩行速度や歩行距離等の条件を変化させ、歩幅や歩隔、他の関節角度などの詳細な分析が必要であると考えられた。

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© 2007 日本理学療法士協会
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