理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 534
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理学療法基礎系
断端皮膚脆弱患者に対するTSB下腿義足の試み
*金元 麻里子中川 和也岡部 孝生森野 勝憲
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抄録

【はじめに】今回断端部が非常に脆弱で、義足を製作するにあたり難渋した下腿切断者を2症例担当した。担当当初、最も一般的であるPTB下腿義足を考慮した。しかし、周知の通りPTB下腿義足は主に膝蓋腱に対する部分荷重がその体重支持の原則となる。そのため、本2症例に関しては、部分荷重を行うことにより脆弱な皮膚に対し、創傷の危険性が懸念された。そこで今回、全面接触で圧の分散が可能なTSB下腿義足(total surface bearing)を選択した。その結果良好な経過を示し、義足歩行獲得に至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】(症例1)年齢:60歳、男性、診断名:閉塞性動脈血栓症、現病歴:K病院にて切断、切断1ヶ月後に当院に転院されリハ開始となる。その他:断端知覚過敏、アトピー性皮膚炎、断端浮腫が認められる。経過:リハ開始直後(切断1ヵ月後)よりSoft dressing法にて断端の形成を図った。しかし当初は浮腫が著明で、かつ断端部は極度の知覚過敏であった。そのため部分荷重を行うと局部に圧がかかるため、疼痛出現は元より皮膚の損傷が生じることが予測された。そこで、圧の分散を考慮しシリコンライナーを用いた全面接触型のTSB下腿義足を選択した。結果、初期時から荷重痛もなく皮膚の状態も良好で、退院時(切断4ヶ月後)、屋内独歩自立、屋外ロフストランド杖自立となった。(症例2)年齢:72歳、男性、診断名:熱傷・有棘細胞癌、現病歴:T病院にて切断、切断3ヶ月後に当院に転院されリハ開始となる。その他:皮膚移植(4回)、断端浮腫が認められる。経過:リハ開始直後(切断3ヵ月後)よりSoft dressing法にて断端の形成を図った。火傷による皮膚移植を行い、少しの摩擦でもすぐに傷をつくる恐れがあった。そのためPTB下腿義足では、ピストン運動により皮膚の損傷が生じることが予測された。そこで、全面接触が可能なTSB下腿義足を選択し、ライナーは一番緩衝作用の高い熱可塑性エラストマーを使用した。懸垂方法は、断端末に溝が出来ていたため局部に圧がかかることが考えられたため、ピンなしライナーを選択した。結果、断端部の状態も良好で、現在(切断5ヶ月後)、は屋内外とも両松葉杖歩行自立となる。
【考察】一般的には切断直後より断端形成を図るが、今回の2症例においては、皮膚が脆弱であったため断端形成を開始するまで期間を要した。TSB下腿義足は全面接触型でピストン運動が少なく、圧が分散し、傷もつくりにくい特徴がある。そのため、断端部への負担が軽減し、早期荷重・早期歩行が可能とされる。今回、断端皮膚が脆弱な2症例に対してTSB下腿義足を処方することにより、断端部への負担が軽減したことが、当初は義足歩行の獲得も困難とされていた上記2症例において義足歩行獲得まで至った要因と考えられる。そのため、今回のような断端部の皮膚に何らかの問題を呈する症例に対して、TSB下腿義足は有用であると考えられる。


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