抄録
【はじめに】
尿失禁は,我が国の健康な女性では10~46%の罹患率とされ,QOLを低下させる重大な社会問題である.尿失禁に対する下部尿路リハビリテーションとしては,骨盤底筋エクササイズ(以下,Ex)が挙げられる.このExに関しては,2004年の尿失禁診療ガイドラインにて,腹圧性尿失禁患者に有効であるとのエビデンスが報告されている.またバイオフィードバックを組み合わせることで,より高い効果が期待できるとの報告もされている.現在Exとしては膣圧計や膣内コーンなど様々な装置を用いた検討がある.またSherburnらは非侵襲的に骨盤底筋の動きの評価が可能な超音波画像診断装置(以下,US)を用い,骨盤底筋収縮時の矢状断面画像の信頼性は高かったと報告している.しかし,それらの関連性に関する報告はない.
本報告の目的は,骨盤底筋収縮におけるUSにより計測した膀胱壁の動きとその時の膣圧の関連性を検討することで,非侵襲的でより効率の良いEx法の一助を得ることである.
【対象と方法】
対象は,研究の趣旨を説明し同意が得られた失禁のない成人女性6名とした.平均年齢は24±2.3歳,平均身長は155.9±5.0cm,平均体重は47.5±4.0kg,平均BMIは19.5±1.1であった.対象には,計測開始60分前から30分前迄に600~750mlの水を飲んでもらった.評価直前にストレステストにて,失禁がないことを確認した.計測には,日立社製EUB-415USと,膣圧計は日本ヘルスサイエンス社製レディス・スティックを使用した.USの深触子は3.5MHzで,体幹の垂線上で臍から二横指外側に矢状面が描写されるよう固定した.対象者には計測前に超音波画像を見ながらExを練習させた.計測は骨盤底筋の持続的収縮を5秒間保持し,その後30秒の弛緩を行うことを1セットとし5セット施行した.US計測には画面上のガイドを使用し,骨盤底筋収縮時の膀胱壁最大位置から弛緩時の最底位置までの距離を計測した.膣圧計は各対象者にセットしてもらい,骨盤底筋収縮時の最大圧から弛緩時の最小圧の差を算出した.以上の方法で,膀胱壁移動距離・膣圧差の再現性とこの2つの関連性について検討した.統計学的分析には,級内相関係数とSpearmanの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果と考察】
膀胱壁移動距離と膣圧差には再現性を認めた.また膀胱壁移動距離と膣圧差には高い相関を認めた.このことから膀胱壁移動距離の観察で膣圧差の評価も可能なことが示唆され,USは骨盤底筋Exのツールとして有効であると考えられた.また選択的な骨盤底筋の収縮を習得するためには,抵抗なく継続可能な非侵襲的なフィードバックが必要であり,今後はUSを用いてExを習得させ,Exを継続した際の膣圧差の検討が必要であると考える.