抄録
【はじめに】
医療や介護場面において褥創の予防や体位ドレナージを目的として枕を使用した体位交換場面を日常的に見受ける。骨の突出部位に対する除圧、換気血流比の改善などが検討されているが、枕で固定することによる影響についてはなされていない。今回は枕の固定部位によって生じる換気の影響について検討した。
【対象】
健常な男性20名で平均年齢は25.6±4.7歳、平均身長は170.1±54.3cm、平均体重は64.6±8.3cmであった。過去に呼吸器、循環器に既往がなく脊柱、胸郭に変形の見られない者を対象とした。なお、対象には研究の目的を事前に説明し同意を得た後に測定を行った。
【方法】
座位、背臥位、側臥位(右下)、胸郭後面に枕を固定した半側臥位(以下、枕固定1)、肩甲帯と骨盤帯に枕を固定した半側臥位(以下、枕固定2)の5つの姿勢においてスパイロメトリ-から肺気量分画、Tiffeneau曲線を用いて測定した。肺胞弾性の程度をFVC、気道狭窄の程度をFEV1.0、FEV1.0%、中枢気道抵抗の程度をPEF、末梢気道抵抗の程度をV(dot)50、V(dot)25にて測定した。測定の順序はカードを用いてランダムとした。統計的手法は、各姿勢間における換気量の%PRに対して一元配置分散分析(対応のある因子)を行いその後に多重比較(Tukey)を用いて検討した。
【結果】
FVC、FEV1.0、PEFにおいては有意差が認められなかった。FEV1.0%における%PRは座位、背臥位、側臥位、枕固定1、枕固定2の順に109.0%、91.4%、88.3%、107.7%、107.4%であり、背臥位、側臥位が他の姿勢と比較して有意に低い値を示した。V(dot)50における%PRは座位、背臥位、側臥位、枕固定1、枕固定2の順に83.2%、79.8%、74.1%、54.2%、74.7%であり枕固定1が他の姿勢と比較して有意に低い値を示した。V(dot)25における%PRは座位、背臥位、側臥位、枕固定1、枕固定2の順に83.2%、75.7%、71.7%、51.3%、73.7%であり枕固定1が他の姿勢と比較して有意に低い値を示した。
【考察】
V(dot)50、V(dot)25の結果より、胸郭後面に枕を固定した半側臥位は末梢気道の抵抗性が増大し換気を阻害する一因子になるのではないかと考えられた。FEV1.0%における背臥位、側臥位が有意に低い値を示す結果は気道狭窄が起こったことによる低値と考えられた。
これらのことから枕固定1は末梢気道抵抗に関しては制限因子となるが気道狭窄に関しては程度を回避する姿勢になるのではないかという可能性が考えられた。