抄録
【目的】メタボリックシンドローム(MS)の診断基準の1次スクリーニングとしてウエスト周囲径(腹囲)85cm以上が必須項目となっていが,臨床上,非肥満者でも前にせり出したような腹部の形状の者の中に高血圧性等の危険因子を有するものが散見される.今回,腹部の形状とMSの危険因子との関係を検討した.
【方法】対象は,本研究に同意が得られた46~60歳の男性69名(平均54.3±4.3(SD)歳)である. MSの診断基準に基づき,血清脂質・血圧・血糖値の3項目を検索し,形態(身長,体重,腹囲,腹部縦幅(縦幅),腹部横幅(横幅))の測定およびBMI,縦横比の算出を行った.対象を,腹囲が85以上(M群)と85未満(N群)の2群に分け,さらに血清脂質異常,血圧高値,高血糖の危険因子のうち,2項目以上を有するM群をMF群(19名),N群をNF群(8名),1項目以下を有するM群をMN群(19名),N群をNN群(23名)の4群に区分した.
2項目以上の危険因子の有無と腹囲85cmでχ2乗検定を行い妥当性を検討した.さらに縦横比で平均値±1標準偏差内のデータ(0.73~0.82間)でカットオフ値を検討した.各群間における形態の有意差検定には,多重比較検定(Scheffe)を用い,すべての統計解析は,危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】1) 腹囲(85cm)では,χ2乗値(Yates補正)4.8,感度70%,特異度60%で有意差(p<0.05)を認めた.
2)年齢,身長においては4群間に有意差は認めなかった.体重,BMI,腹囲,縦幅,横幅に関してもMF群とNF群,MN群とNN群の両群間で,有意差は認めなかった.縦幅,縦横比に関して,MF群(25.1±1.7,0.82±0.03)はNF群(22.5±1.0,0.76±0.03)より,またMN群(23.3±1.1,0.80±0.02)はNN群(20.7±1.6,0.74±0.04)より有意(p<0.05)に高かった.
3)縦横比の検討では,0.78(χ2乗値(Yates補正)29.5 p<0.001,感度89%,特異度81%)が,カットオフ値として最適であった.
【考察】本邦では内臓脂肪蓄積のスクリーニングとして,立位,呼気時に腹囲を測定し,男性は85cm以上で要注意とされる.これは,臍高CTで評価した内臓脂肪面積100cm2に相当する.しかし,この基準では腹囲85cm以上の男性において内臓脂肪型肥満の検出率は高くなるが,それ以下の隠れMS者が範疇から外れる可能性がある.今回の検討では,腹囲が85cm未満のものは,腹囲判定でMSの診断から除外されてしまうにもかかわらず,約1/4の者はMSの危険因子を2項目以上有していた.また,N群,M群ともに腹囲,横幅に有意差を認めなかったにもかかわらず,MSの者は縦幅と縦横比が有意に高く,MSの腹部は,MSではない者に比して,前方にせり出した形状になりやすいことが示された.中高年男性のMSを体型から把握するためには,縦横比の計測が有用であり,縦横比が0.78以上の場合,腹囲が85cm未満でも危険因子を有する可能性が高く,減量を目的とした運動療法を指導する必要がある.