抄録
【はじめに】 筋線維伝導速度(muscle fiber conduction velocity:MFCV)は、動物実験において、筋線維の太さと関係し、筋線維が太いほうがMFCVは速くなるとされている。また、人間での報告では、四肢周経囲とMFCVとの関係を検討することや明らかに萎縮した筋と萎縮していない筋のMFCVを比較することで、筋線維の太さの指標としてMFCVが有用であると報告されている。しかし、人間での報告では、筋線維直径や筋断面積とMFCVとの相関関係を見た報告がほとんどなく、その詳細な検討が必要とされている。今回、我々は、健常人の上腕二頭筋断面積とMFCVの関係について観察し、筋の太さの指標としてのMFCVの有用性について検討したので報告する。
【対象】 健常人17人(男性10人、女性7人、平均年齢26.9±5.3歳)であった。
【方法】 MFCVの測定筋は、左右の上腕二頭筋とした。被検者は、肩関節90°外旋位、肘関節伸展0°位、前腕90°回外位の仰臥位姿勢であった。電極は、1mm×10mmの銅電極を5mm間隔で8個配列した微小表面電極列を用いた。微少表面電極列は、上腕二頭筋末梢部から3~5cm中枢側の筋腹から筋線維走行に沿って貼付した。電気刺激は、持続時間0.5msの矩形波を用い、刺激頻度1Hzで、上腕二頭筋末梢部を刺激した。筋電図は、それぞれ隣り合う電極から7つの筋電図を双極性に導出した。電気刺激の強度は、電気刺激部位に最も近位の電極から導出した波形を第1波形、最も遠位の電極から導出した波形を第7波形とすると、第1波形から第7波形にかけ、一定の潜時差をもった陰性ピークを持つ波形が得られる強度を採用した。MFCVは、電極間距離(30mm)を、第1波形と第7波形の陰性ピークの遅延時間 で除して算出した。肘関節屈曲筋力は、デジタル力量計(竹井機器工業製)を用い、被検者は肩関節0°位、肘関節90°屈曲位、前腕90°回外位での椅座位姿勢で、肘関節最大等尺性屈曲を行うことにより測定した。上腕二頭筋の筋断面積は、上腕最大周径囲でCT(RADIX-Prima:日立メディコ)による筋断面撮影を行い、得られた画像より測定した。
【結果】 上腕二頭筋断面積とMFCVとの間には、高い正の相関関係(r=0.84、p<0.01)が見られた。さらに、筋力とMFCVとの間にも、高い正の相関関係(r=0.77、p<0.01)が見られた。
【考察】 健常人の上腕二頭筋断面積とMFCVとの関係を観察した結果、人間においても筋断面積が大きいほどMFCVは速い値を示した。この結果から、MFCVは、筋線維の太さの指標として有用であると考えられる。