抄録
【目的】
近年、筋の定性的評価として表面筋電図による周波数解析について数多く報告されており、主に最大努力下における等尺性収縮や筋疲労時の周波数帯を分析することで運動単位の活動様式や筋線維typeの割合を予測する研究が行われている。一般に、随意収縮強度(%MVC)の増大により高周波帯の成分が増加するとされるが、個々の筋において活動様式や環境の相違から、%MVCと運動単位の活動特性が各筋において異なることが報告されている。しかし、これらの報告は体幹や下肢筋を対象としたものが多く、上肢さらに肩関節の周囲筋を対象としたものは少ない。本研究の目的は、肩関節周囲筋の等尺性収縮における、随意収縮強度を変化させることで表面筋電図の周波数帯が個々の筋でどのような変化を示すのかについて検討した。
【対象と方法】
本研究の主旨を理解し、参加に同意の得られた健常男性13名13肩(平均年齢21.7±2.7歳、平均身長173.8±7.0cm、平均体重66.6±10.8kg)、全例利き手を対象とした。なお、スポーツ特性による偏りを除くため、オーバーヘッドスポーツ経験者は対象より除外した。被検筋は棘下筋・三角筋中部線維・上腕二頭筋・広背筋の4筋とし、測定肢位は、棘下筋は側臥位、三角筋・上腕二頭筋は端坐位、広背筋は腹臥位とした。表面電極は皮膚処理を十分行った上でMedicotest社製Blue Sensor M-00-Sを使用し、DelagiとPerotteの記述を参考に貼付した。次に、表面筋電計Noraxon社製Myosystem1200を用いて各筋の100・50・25%MVC等尺性筋力を測定した。各%MVCはJtech Medical社製Power TrackIIを用いて各収縮強度の調節を行った。測定は、100%MVC・50%MVC・25%MVC、それぞれ2回測定し、中間周波数を算出した。なお、測定時間は3秒間とし前後0.5秒間を除いた2秒間を解析した。各収縮強度における中間周波数の変化について反復測定分散分析およびScheffeの多重比較検定を用いて統計処理した。
【結果】
棘下筋および三角筋は%MVCの低下に伴い有意に周波数の上昇を認めた(p<0.05)。広背筋は100%MVCおよび50%MVCと25%MVCで有意に周波数の低下を認めた(p<0.001)。上腕二頭筋は100%MVCと25%MVCの間で有意に周波数の低下を認めた(p<0.05)。
【考察】
%MVCの低下に伴い棘下筋・三角筋では周波数の上昇を、広背筋・上腕二頭筋では周波数の低下が認められた。広背筋・上腕二頭筋は、筋線維typeの比率やサイズ原理に従い収縮強度の低下に伴って速筋系の活動が減少し周波数が低下したものと考えられる。また、棘下筋は肩関節の安定筋であるため持続的な低収縮力が要求されることは言うまでもなく、本研究においても遅筋系の比率が多いことが示唆された。三角筋は、本来outer muscleとしてパフォーマンスに寄与する速筋系が多いことが考えられるが、今回の結果より遅筋的要素も合わせもつことが推測された。