主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】起立動作で座面の高さが各相の筋活動に及ぼす影響を検討し、臨床で環境設定や起立が困難な症例の原因を検討する手がかりとすることが本研究の目的である。
【方法】対象者は健常成人7名(平均身長171.5±3.5 cm)であった。座面は股関節と膝関節が屈曲90度、足関節0度の高さを基準とし-10cm、-5cm、0cm、5cm、10cmとした。運動課題は端座位から静止立位までの起立動作で合計3回行った。開始肢位の座位は大腿長の3分の1が座面と接するようにし、上肢は胸部前方で組ませた。次に、テレメーター筋電計(キッセイコムテック社製)で、後藤ら(2002)により起立時に必要といわれている前脛骨筋、腓腹筋外側頭、大腿直筋、内側広筋、外側広筋、大腿二頭筋、大殿筋、脊柱起立筋の筋活動を記録した。それと同時に右側からビデオ撮影を行った。本研究では、起立動作を第1相(体幹を前傾して重心を前方移動させる相)、第2相(殿部離床し、前下方へ重心移動する相)、第3相(体幹伸展開始から立位姿勢をとる相)と規定し、ビデオをもとに動作を3相に分類した。そして、各相の各筋の筋電図積分値を算出し、各座面の高さで筋電図積分値を比較した。筋電図積分値はTurkeyの多重比較を用いて統計学的に検討した。
【結果】低い座面ほど第2相の前脛骨筋、第3相の大腿直筋・内側広筋・外側広筋の筋電図積分値が有意に増大した(p<0.01)。また、その他の筋に差はみられなかった。
【考察】後藤らは起立動作において、低い座面ほど骨盤は後傾し重心が後方化すること、体幹前傾が困難な時の代償として下腿前傾が増大することを報告している。よって、低い座面における第2相における前脛骨筋の筋活動の増加は、骨盤が後傾し重心が後方化したために体幹の前傾が困難となり、その代償として下腿前傾の増大に作用したためと考えられる。また、後方への重心移動にともなった足関節の背屈反応としても作用したとも考えられた。また、低い座面ほど重心が後方化したことにより膝への屈曲トルクが増大することが考えられる。つまり、第3相における膝伸展筋の筋活動の増加は、増大した膝屈曲トルクに拮抗した結果であると考えられた。さらに、各相の脊柱起立筋、大殿筋の筋活動については鴨田らによる起立時に座面の高さを変えても同筋群の活動は増加しないという報告を支持する結果となった。このことから、本研究の起立動作では下腿の前傾が重心の前方移動を行わせ、体幹屈曲、骨盤前傾による重心の前方移動への関与が少ないため、それを制動する脊柱起立筋や大殿筋の筋活動の増加が生じなかったことが考えられた。