抄録
【目的】ウォーミングアップ(以下W-up)は,障害予防とパフォーマンス向上を目的として一般的に行われているが,その方法や効果は様々である.そこで今回,W-upの有無によって,パフォーマンスの要素として発揮される関節角速度に差異を生じるかどうかを検討したので報告する.
【方法】対象は実験主旨を説明し同意を得た健常成人男性16名(平均年齢は21.8歳,身長172.6cm,体重64.6kg)とした.運動課題は,端座位での膝関節90度屈曲位から無負荷最大努力での右膝関節伸展運動とし,1分の間隔をおいて3回実施した.その際に,膝伸展角速度を3軸角速度計(micro stone社製,MP-G3-01A)を用いて測定した.その後,5つのW-upの条件にて介入を行った後に,再度,膝伸展角速度を測定した.5つの条件は,1.W-upなし(安静15分),2.他動的W-up(安静5分,湿性ホットパック10分),3.局所的W-up(安静10分,大腿四頭筋ストレッチ30秒,膝関節屈曲伸展運動50%MVC10回),4.他動・局所的W-up(課題2・3併用:湿性ホットパック10分,大腿四頭筋ストレッチ30秒,膝関節屈曲伸展運動50%MVC10回),5.全身的W-up(安静5分,トレッドミル歩行10分:90m/分),とした.各条件は日を変え,実施順序も無作為とした.また,各運動測定前に,皮膚温計(芝浦電子,携帯用デジタル温度計TD-300)を用いて,膝蓋骨上縁から5,10,15cm近位の大腿前面で皮膚温を測定した.統計処理には,統計解析ソフトSPSS(ver.14)を使用し,有意水準を5%未満とした.
【結果】最大発揮角速度[deg/s] の平均値は,課題2は850.8から910.0,課題3は857.5から915.5,課題4は849.0から945.1,課題5は854.9から895.2へと有意に増加した.その増加率には各課題間で有意差があり,課題4>課題2・3>課題5の順で大きかった.皮膚温[°C]は,課題2は31.4・31.6・32.3(5cm・10cm・15cmの順で平均値記載)から33.0・34.1・34.3に,課題4は31.9・32.2・32.6から32.7・33.9・34.4に有意に増加し,課題5は31.4・31.8・32.3から30.1・30.6・31.3に有意に低下した.
【考察】結果より,課題2・3・4・5のW-upは,それぞれ最大発揮角速度を向上させる効果があることが示された.課題2では,温熱作用により,軟部組織の伸張性増大,神経-筋活動・循環・代謝の亢進がその原因と考える.また課題3では,皮膚温に有意な変化がなかったことから,ストレッチと局所運動によりIb抑制,相反抑制作用で筋の弛緩が得られたことが原因と考える.さらに,最も効果が現れたのは,課題2と3を併用した課題4であったことから,両者の相乗効果が生じたと考える.課題5でも,増加率が最も少なかったが効果がみられたことで,全身運動に伴う血流亢進がその原因と考え,皮膚温の低下は発汗によるものと考える.今回の実験から,トレッドミルや自転車エルゴメータなどでのW-upが困難な場合にも,他動・局所的なW-upが有用であることが示唆された.