理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1201
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理学療法基礎系
半側空間無視症例に対するプリズム眼鏡への順応が体性感覚的空間に及ぼす影響について(第2報)
*富永 孝紀市村 幸盛浦 千沙江里中 恭子大植 賢治山崎 英子高橋 志野森岡 周
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抄録
【はじめに】我々は,前回の本学術大会においてプリズム順応が半側空間無視(以下、USN)症例の身体表象を改善させうる可能性を3症例から報告した.今回,USN患者の身体表象について,実験1でUSN患者とUSNを呈さない患者では異なるのか,また異なる場合は実験2でプリズム順応によって改善させ得るのかを明確にするため本研究を行った.その結果,USN患者の示す身体表象の不確実さとプリズム順応によって身体表象を改善させ得ることが示唆されたので報告する.
【方法】実験1では,BIT日本版を用いてUSN群12名とUSNを呈さない群11名の2群に分け,体性感覚的空間課題(以下,課題)を実施しUSN患者の身体表象について検討した.課題は,被験者の前方にマネキンを設置し,験者が被験者の背中を押さえ,その位置をマネキンに定位するものとした.験者が被験者の背中を押さえる位置として脊柱を中心に左側と右側に区分し,さらに左側(以下,Lt)を縦に2列(以下,LL,L),右側(以下,Rt)を縦に2列(以下,R,RR),合計12箇所を設定した.マネキンの背中には,視覚的な探索を誘発させないために順序性を持たない記号を被験者と対応するように12箇所設定した.各ポイント4回,合計48試行とし,列(12試行)ごとの正解数とLt,Rt(各24試行)の正解数を算出した.実験2では,実験1に参加したUSN患者12名中9名に対し,偏向のない通常の眼鏡(以下,コントロール条件),プリズム眼鏡(以下,プリズム条件)を装着して到達運動を実施した.実験1の結果をベースライン条件に3条件の体性感覚空間課題の成績を比較しプリズム順応が身体表象に与える影響について検討した.
【結果】実験1では,USNを呈さない群に比較しUSN群において課題の成績に有意な低下が認められた.実験2では,ベースライン条件とコントロール条件に比較しプリズム条件にて課題の成績に有意な向上を認めた.
【考察】実験1では,USN群の身体表象が全体的に右側へ偏位したかたちで再現され,身体図式が狭小化している可能性が考えられた.また山鳥は,身体図式が崩壊することでその結果として皮膚感覚を介する身体的空間を知覚する能力が不安定になることを述べており,正解数の低下が右側空間まで及んだこの実験結果から同様のことが推察された.実験2では,プリズム順応が視空間の拡大と,身体を適切に再現することが可能になったことを示す.プリズム条件での到達運動は,指標から得られる空間座標と身体図式から得られる体性感覚空間座標との間に誤差を生じる.USN患者は,誤差を検出しながら到達運動を繰り返すことで,新たな感覚情報の統合が行われ,身体図式の再編成が生じ,順応後の課題では,新たな身体図式をもとに押された背中の位置を定位し,マネキンの記号と照合することで成績が向上したと推察された.
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© 2007 日本理学療法士協会
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