抄録
【目的】
直立姿勢位の足圧中心点(Center of pressure,以下COP)を計測する手法は,簡便且つ非侵襲的に多くの制御メカニズムに関する情報を得ることが可能である.COPの時系列波形は,不規則に推移するゆらぎが観察され,このゆらぎ特性を解析する手法としてフラクタル解析の一手法である,Detrended Fluctuation Analysis(以下,DFA)はゆらぎの不規則性を定量的に示し,且つ短期・長期の時間領域に分類する事が可能で,これまで呼吸・循環器系の波形特性の把握に応用されて成果を挙げている.本研究の目的は,健常若年者とパーキンソン病者(PD)を対象にCOPの波形に対しDFAによる解析をおこない姿勢制御特性の質的差異を明らかにする事である.
【方法】
対象は,健常成人(YNG)10名(年齢:26±4歳,身長:166±5cm)及び,パーキンソン病者(PD)7名(年齢:67±10歳,身長:158±7cm)とした.計測課題は,直立姿勢位を30秒間保持する課題として3回計測した.計測機器は,重心動揺計(酒井医療社製:Active Balancer)を用いてCOP前後方向〔a-p〕および左右方向〔m-l〕の時系列データを求めた.波形解析は,DFAを用いてスケーリング指数:αを求めた.さらに,時間周期成分に着目するため短時間領域(S-S)および長時間領域(L-S)に分類して,t検定により2群間の有意差を求めた.
【結果】
YNG・PSDの各DFA値は,〔a-p〕YNG:1.34±0.08,PD:1.23±0.10(*)〔m-l〕YNG:1.22±0.08,PD:1.31±0.14となり,YNGでは〔a-p〕,PDでは〔m-l〕の高値を示した.さらにS-Sでは,〔a-p〕YNG:1.44±0.06,PD:1.42±0.06,〔m-l〕YNG:1.47±0.05,PD:1.52±0.05(*)となり,L-Sについては,〔a-p〕YNG:1.09±0.21,PD:0.95±0.13(*) 〔m-l〕YNG:0.89±0.23,PD:0.86±0.26となった.(* :p<0.05)
【考察】
PDの〔a-p〕スケーリング指数が低値を示したことから,同方向の波形特性は不規則性が多分に含まれていると言える.しかし,一方ではPSDの〔m-l〕方向のスケーリング指数がYNGよりも高値となったことについては,2群の制御パタンの差異によるものとも考えられる.また,時間周期に着目すると,PDでは,左右方向の短時間周期,YNGでは,前後方向の長時間周期に比較群との差が見られ,それらが制御パタンの特徴的な点かも知れない.今後,症例数を増やすと共に,生理学的意義について検討していきたい.