抄録
【はじめに】臨床において、弾性包帯による圧刺激は固有感覚からの求心性入力を増加させる事で、筋活動が増加し、運動制御機能の向上が図れる事が考えられている。しかし、筋反応時間などの生理学的作用機序については十分な検討はなされていない。今回、我々は弾性包帯による圧刺激が膝運動認知からトルク発生時間までに及ぼす影響について検討を行った。
【対象と方法】膝関節に整形外科的疾患を有しない男性7人、女性3人、平均年齢25.7歳を対象とした。測定には、Biodex 社製Biodexシステム3を使用した。測定肢位は椅座位とし、ダイナモメーターのアームを下腿部に取り付け、膝関節屈曲45°より角速度5deg/secにて膝関節を屈曲方向へ他動的に動かし、被験者が他動運動を認知した際直ちに膝関節伸展を行うように指示した。尚、視覚、聴覚及び皮膚よりの感覚入力を最小限にするために、アイマスクとヘッドフォンを装着させアーム固定部にはタオルを巻いた。また、弾性包帯は大腿遠位から中央部まで軽い圧迫を感じる程度に巻いた。測定は1)軸足弾性包帯無し、2)軸足弾性包帯有り、3)非軸足弾性包帯無し、4)非軸足弾性包帯有りの4条件とし、1条件3回、測定順序及び測定間隔は任意とした。また、軸足は片脚立位にてより安定する足とした。解析は、角度及びトルク変化をVitalRecorder2(キッセイコムテック社製)にて記録し、Bimutas-Videoを用いて関節角度変化開始からトルク発生までの時間を測定し、軸足及び非軸足における弾性包帯による圧迫の有無について分散分析を用い検討を行った。
【結果】関節角度変化開始からトルク発生までの応答時間の平均値は、1)軸足弾性包帯無し250±59 msec、2)軸足弾性包帯有り213±54msec、3)非軸足弾性包帯無し247±69msec、4)非軸足弾性包帯有り249±113msecであった。各条件における検討については、軸足弾性包帯無しと軸足弾性包帯有り、また軸足弾性包帯有りと非軸足弾性包帯有りにおいて、軸足弾性包帯有りのトルク発生時間が有意に早いトルク出現を認めた(P<0.05)。
【考察】今回の結果では、弾性包帯を巻く事によりトルク発生時間が有意に早い出現を認め、弾性包帯による大腿部への圧刺激が、メカノレセプターや筋紡錘の感受性を高め、関節運動開始からトルク発生までの時間を短縮させたと考えられる。しかし、身体制御機能の一つである筋反応時間に対し、圧刺激がどの程度影響するのかを検討するためには、今後、運動認知からの潜時時間及び動作発揮を含めたさらなる検討が必要である。