理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 734
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神経系理学療法
呼吸筋麻痺を超えた筋萎縮性側策硬化症患者の活動性調査
*小林 義文田中 佐智代小林 明子
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抄録
【目的】近年、医療・福祉制度の充実や人権意識の向上から、呼吸筋麻痺を超えて人工呼吸器を装着、長期に在宅生活を行う筋萎縮性側策硬化症(以下ALS)患者が増加している。今回、長期に生存するALS患者の日常生活活動度を調査することでリハビリテーションを行う際の目標設定及びプログラム立案の参考とする。

【方法】過去10年、当院に入院したALS患者で、気管切開下陽圧式人工呼吸器を装着し自宅退院した10名を対象に、装着後期間や身体状況、日常生活活動度、呼吸器からの間欠的離脱時間、PT状況等を、診療記録および日本ALS協会福井支部関係者や会員患者から聞き取り後方視的に検討した。

【結果】症例は、男性8名、女性が2名で、呼吸器装着時の平均年齢は52.7歳、平均装着期間は70.8月であった。タイプは球麻痺3名、四肢麻痺は7名であった。装着後経過期間で見ると、3年未満が3名で比較的意思疎通が保たれ、5年未満の4名は最小限のコミュニケーション状態(以下MCS)となり、5年以上の3名の内2名は全随意筋麻痺(以下TLS)であった。3年以上経過している群では従来のALSでは見られないと言われていた外眼筋麻痺や膀胱直腸障害等の陰性徴候が出現した。同時に外出頻度が減少、排泄場所はトイレからベッド上になり、バルーンカテーテルを挿入しオムツ排泄が増えた。意思伝達装置のスイッチは押しボタンから空圧式や赤外線となり、栄養摂取方法はPEGとなるなど更なる機能低下が見られた。しかし1名を除いた9症例は、福祉制度を利用して浴槽で入浴、日常的に車椅子散歩を取り入れ、患者会交流会に車椅子に乗って参加した。TLSの2名以外はネットで買い物や読書、メールのやり取りをしていた。長期経過群では、7名の患者及び家族が自らのケア会議に参加、6名が医療・福祉研修生の受入れをしていた。また、ピアカウンセリングや学校で講演をするものが4名いたが、逆に短期群では皆無であった。

【考察】呼吸器装着期間が2年を経過すると、従来は陰性徴候とされていた機能も低下を来たし、MCS状態となる傾向にあるが、離床や入浴、車椅子での散歩等を日常的に行われていると、社会活動への参加は落ちない傾向にある。そのためのケア体制の充実、リハプログラムを実施し、患者会や患者家族自身が積極的に関わっていた為と思われる。

【まとめ】今回、MCSの時期を越えても入浴や散歩をし、交流会に集い、人前で講演するなど、人としての尊厳を維持するための活動を行っていることを提示した。機能障害がどんなに重度になっても、活動性を低下させないことをリハ目標として、家族、看護師、ヘルパーに対して、ROM訓練、呼吸リハ、器具を用いた安楽な車椅子への移乗指導、コミュニケーション機器の導入の重要性をPTプログラムとして示すことの重要性が示唆された。
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© 2007 日本理学療法士協会
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