理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 738
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神経系理学療法
脳卒中患者にみられたPusher現象の頻度と責任病巣及びその経過
*阿部 浩明近藤 健男藤原 悟出江 紳一
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キーワード: Pusher現象, 脳卒中, 責任病巣
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抄録
【はじめに】
Pusher現象の出現率に関してこれまでPedersenらやPontelliらが,経過に関してはDanellsらが報告している.すなわちPusher現象は急性期にみられるが,多くの者は時間経過と共に消失していくという.しかし,出現率は報告毎に大きな差があり一致していない.これは対象選定の条件やPusher現象の有無を判定する基準が異なるためである.そこで,我々はScale of Contraversive Pushing (SCP)>0をPusher現象の基準として当院における出現率を調査した.またPusher現象のみられた者の責任病巣と経過についても調査したので報告する.
【対象と方法】
平成18年5月23日から9月23日までに当院に入院し理学療法を処方された脳卒中患者163名のうち,くも膜下出血,及びテント下病変を除外した132名を対象として後方視的に調査した.対象者のPusher現象の有無はSCPを用いて評価しSCPの合計得点が>0であった場合にPusher現象ありとした.Pusher現象がみられた者の脳損傷部位についてMRI及びCT画像を調査した.さらに当院入院中のSCPの経過について調査した.
【結果】
対象者の平均年齢は69.6±11.9歳で,男性89名女性74名であった.発症から初回評価までの期間は9±3.0日であった.調査期間中,7名にPusher現象がみられ出現率は4.2%であった.症例の初回評価時SCPと最終評価時のSCPは症例1:6→2.75 (追跡日数6日,以下同様), 症例2:5.25→1.75 (6), 症例3:6→3 (19), 症例4:3→3 (7), 症例5:4.25→0 (15), 症例6:2.75→2 (3), 症例7:2.5→0 (21)であった.病巣は症例1:左被殻出血,症例2:ラクナ梗塞(左放線冠),症例3:心原性塞栓(右MCA領域),症例4: 心原性塞栓(右M2領域),症例5: 左被殻出血,症例6: ラクナ梗塞(右内包後脚),症例7:脳梗塞(左M2領域)であった.
【考察】
出現率は4.2%でありPedersenらやDanellsらの報告よりも低値でPontelliらの報告より高値であった.損傷部位では7例中5例がJohannsenらの報告にある視床から島もしくは中心後回への経路の損傷と合致していた.一方で,症例2,6のようにそれとは一致しない例もみられた.経過は,追跡可能な期間が症例ごとに異なり完全消失まで追跡できない例もあったが,7例中6例が追跡期間内での改善を認め先の報告と一致した.完全消失しない例では追跡期間が短期間であっても全例SCP3以下となり坐位での現象はほぼ消失していた.このことからSCP3以下の現象,すなわち坐位ではなく立位で残存するPusher現象を標的として治療し,いかに早く改善できるかが重要であると考えられた.今回の調査期間は4か月間と短く十分な対象者数が得られていないため,さらに調査を継続したい.
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© 2007 日本理学療法士協会
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