理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 737
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神経系理学療法
右半球脳卒中患者の非麻痺側肢の運動の漸増的変化
*松尾 篤冷水 誠森岡 周庄本 康治徳永 奈穂子中村 元紀関 啓子
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抄録
【目的】右半球脳卒中後の特徴的な障害の一つとして,半側空間無視(USN)が挙げられる。そのUSN患者のADLの予後は,非USN患者の予後よりも不良であるとする報告がある(Paolucci, 2001)。しかしながら,USNの多くは発症後3ヶ月以内で消失することから,ADL予後やリハビリテ-ション効果に影響するかどうかは明確でない。また,脳卒中患者の非麻痺側肢の運動異常性に関する報告がいくつかある。リハビリテ-ションに対する治療効果の反応性の低下の原因が,非麻痺側肢の運動異常に影響されるかも知れないという仮説がある(Mizuno,2006)。本研究の目的は,右半球脳卒中後の非麻痺側上肢による一定運動の持続性を評価し,USNとの関係を調査することである。
【方法】右利きの右半球脳卒中患者11名(男性7名,女性4名,平均年齢69±10歳,発症後期間8.2±9.4カ月)を対象とし,過去に半側空間無視を有した患者は5名であった。全患者に研究内容の同意を得た上で,線分描画課題を施行した。線分描画課題には,2本の垂直線を引いたA4用紙を使用した。2本の垂直線の両上端を開始点(2個所)として,水平線を連続的に10本描画することを課題とした。被験者は非麻痺側手(利き手)にペンを把持し開眼にて一度課題を施行し,その後閉眼にて各開始点よりそれぞれ3回ずつ課題を実施した。評価は各線分長を定規で計測し,1本目線分に対する2本目から10本目の線分の誤差および線長比を算出した。分析にはANOVAおよびノンパラメトリックテストを使用した。
【結果】全患者での1本目に対する2-10本目までの線長比は平均で1.07±0.19であり,1本目と比較して7-10本目の線長は有意に延長した(p<0.001)。また,USN合併別での線長比はUSN群で0.99±0.2,非USN群で1.14±0.2であった。さらに1本目に対する平均線長誤差は,2-5本目で -4.8mm/線(USN),16.4mm/線(非USN),6-10本目で -0.9mm/線(USN),33.8mm/線(非USN)であり,USN群では5本目までの線長減少率が大きく,非USN群では6本目以降の顕著な線長増大率を示した。
【考察】右半球脳卒中患者の非罹患肢である利き手での線分描画課題において,漸増的線分延長効果が観察された。しかしながら,USN合併の有無による分析から,この漸増性線分延長効果は非USN群にのみ該当し,USN群ではむしろ漸増性線分減少効果を示した。Mizunoらは漸増性肢運動減少(Incremental limb hypometria; ILH)を報告しており,上肢での運動維持困難の一型あると述べている。本結果はILHに一致するが,非USN群での線分延長効果やILHのメカニズムに関しては不明確な点が多く,今後リハビリテ-ション効果に及ぼす影響と併せて検証していく必要がある。
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© 2007 日本理学療法士協会
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