理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 746
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者における非麻痺側リーチ距離の見積もり誤差と転倒との関係
*高取 克彦梛野 浩司徳久 謙太郎宇都 いづみ岡田 洋平奥田 紗代子鶴田 佳世生野 公貴竹田 陽子松田 充代庄本 康治嶋田 智明
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抄録

【はじめに】脳卒中片麻痺患者は、その多くが高齢者であることに加え、空間認知能力の低下などを有する場合もあることから、地域高齢者に比較して転倒の危険性が高い。自己の姿勢安定性限界を正確に知覚することはバランスを失わずに運動を計画するための潜在的なsafety factorと解釈されている。本研究の目的は脳卒中片麻痺患者を対象に、自己の前方安定性限界を反映する上肢リーチ能力の見積もり距離と実際のリーチとの誤差距離が入院中に生じた転倒歴とに関連があるか否かを検討することである。
【方法】研究目的が理解でき、参加に同意の得られた脳卒中片麻痺患者52例(平均年齢68.7歳、平均罹患期間6.7ヶ月)を対象に、Functional reach test (FRT)を応用した非麻痺側上肢の最大リーチ見積もり距離(Perceived reachability: PR)を評価し、実際のリーチ距離との誤差(以下、誤差距離)と入院期間中に生じた転倒歴との関係を調査した。PRはリーチ目標物が遠位から近位に接近する条件(Approaching-object condition)で評価し、誤差距離は実際の距離との差を絶対値で記録した。また両者の関連性を他の因子も含めて検討するために、調査項目にはこの他、FIM移動項目点数、非麻痺側Functional reach距離、下肢Brunnstrom's recovery stage、下肢感覚障害の程度、転倒恐怖心、鬱評価スケール(MADRS-J)を評価した。解析は誤差距離と転倒歴との2変数間の相関と、複数回転倒の有無で分類した各調査項目における2群間の比較、および転倒と各調査項目の多要因を含めた解析とした。誤差距離と過去の転倒回数との関係にはピアソンの積率相関係数を用い、多要因での解析には目的変数を複数回転倒の有無に2項化したステップワイズ法での多重ロジスティック回帰分析を用いた。統計ソフトはJMP(日本語版ver.5.5.1)を用い、危険率を5%未満に設定した。
【結果】誤差距離と転倒回数には有意な正の相関が認められた(r=0.45, p<0.01)。また複数回転倒の有無を基準に2群化した場合、平均誤差距離、下肢感覚障害およびMADRS-J合計点数は転倒群が有意に大きかった(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果では、誤差距離、FIM移動項目点数、MADRS-J合計得点が転倒関連因子として採択され、モデルの寄与率は46%であった。回帰式を用いた判別分析による予測適中数は39/52人であり判別率は76.4%であった。ROC曲線(AUC:80%)からは6.3cmの誤差距離が最も感度(92.3%)と特異度(28.2%)の高い判別点であり、複数回転倒者の13例の内、6.3cm以下の誤差距離を有する患者は1名のみであった。
【考察】以上のことから、片麻痺患者に対するFRTを応用したPR見積もり誤差の評価は、転倒ハイリスク患者を判別する簡便なスクリーニングの1つとなる事が示唆された。そしてその判別は6.3cm以上の誤差距離が基準となる可能性がある。

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© 2007 日本理学療法士協会
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