理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 747
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神経系理学療法
脳血管障害例の退院時起居移動動作自立度規定因子の分析
*渡辺 学網本 和桒原 慶太成田 美加子佐藤 涼子目黒 智康
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抄録

【目的】脳血管障害患者の退院時の転帰先などをアウトカムとした研究については多くの報告があるが、理学療法の主目的である起居移動自立度についての規定因子を分析したものは少ない。そこで今回の研究では初期評価項目から退院時の移動自立要因について従来重視されてきた麻痺重症度に加え高次脳機能障害を含めて検討することを目的とした。
【対象】2004~2005年度に当院で理学療法を実施した脳血管障害例のうち、両側麻痺と入院中に死亡した例を除く186例を対象に後方視的に検討した。内訳は左麻痺103例、右麻痺83例、平均年齢69.3歳であった。これらの対象を、移動自立度を基準にADL上で歩行が自立または介助で可能なものを歩行自立群、車椅子移動または離床困難なものを歩行非自立群の2群に分類した。この2群について初期評価項目からχ2検定の群間比較により関連性の高い以下の6項目を抽出し、各項目をそれぞれ2群に分類した。入院日数:30日未満と30日以上、発症から立位練習開始までの日数:10日未満と10日以上、意識:JCS0・1桁と2・3桁、認知症:MMSE24点未満と24点以上、高次脳機能障害:陽性と陰性、麻痺重症度:下肢Br-stageI~IIIとIV~VI。更に移動自立度を目的変数としてロジスティック解析を行い、ADL(FIM:115点を分岐に2段階)と退院先(自宅復帰群と転院または施設入所群)の規定因子と比較検討した。
【結果】移動自立度と規定因子との関係では、麻痺の重症度は重度麻痺例が自立群で31例(21.7%)、非自立群で86.0%であった。高次脳機能障害の出現率は自立群で29.4%、非自立群で60.5%であった。認知症の出現率は自立群で26.6%、非自立群で46.5%であった。立位練習開始までの日数は10日未満が自立群で68.5%、非自立群で25.6%であった。入院日数は30日未満が自立群で51.0%、非自立群で14.0%であった。意識障害は陰性または軽度意識障害例が自立群で94.4%、非自立群で65.1%であった。退院時移動自立度への影響の強さを示すオッズ比は、麻痺重症度:13.67、高次脳機能障害:3.43であった。退院時FIMへの影響では、高次脳機能障害:8.43、麻痺重症度:6.06、そして退院先への影響では、高次脳機能障害:4.68、麻痺重症度:3.51であった。その他の規定因子のオッズ比は比較的小さかった。
【考察】麻痺重症度と高次脳機能障害出現率は、いずれの機能的予後にも強く影響を及ぼしていたがその重さはそれぞれで異なっていた。すなわち機能的予後を推定するときの目的変量の違いによって主要な規定因子が異なることから、退院時のADL(FIM)自立度に関しては高次脳機能障害への介入の必要性が示唆される。

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© 2007 日本理学療法士協会
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