抄録
【はじめに】近年、在院日数の短縮化が図られ、脳卒中リハビリテーションにおいてもより早期で患者の自立歩行を判断するための因子の検討が必要と考えられる。我々は、第41回日本理学療法学術大会において、高次脳機能障害の無い発症から30日以内の脳卒中片麻痺患者(以下片麻痺患者)83例を対象に、片麻痺患者の病棟内自立歩行に影響を与える因子について検討し、麻痺側脚伸展筋力、BED・車椅子間の移乗動作の自立の可否(以下移乗動作)の2項目で特に有意なオッズ比を得たことを報告した。今回、我々は高次脳機能障害を有する患者も加え、片麻痺患者の病棟内自立歩行に影響を与える因子について再度検討を加えた。
【対象】対象は、2001年10月から2006年9月の間に当院リハビリテーション科に入院し、発症から30日以内で検査測定が可能であった初発片麻痺患者156例(平均年齢:63.1±9.6歳、性別;男性:105例、女性:51例、診断;脳梗塞:80例、脳出血:76例、障害側;右片麻痺:73例、左片麻痺:83例、麻痺側下肢上田12グレード(以下、下肢グレード):8.3±2.8、Motor FIM:63.0±14.9/91点、発症からの期間:23.1±5.9日)とした。理解の低下が著明であり、検査の遂行が困難な例、クモ膜下出血例、失調症状を有する例、下肢に整形外科的な疾患を有する例は除外した。
【方法】対象例を、杖・装具の使用に関わらず病棟内自立歩行の可否を従属変数とし、性別、年齢、診断、障害側、リハ開始病日、長谷川式簡易知能スケールの得点、失語症の有無、左半側無視の有無(以下半側無視)、意識障害の有無(以下意識障害)、麻痺側下肢表在感覚障害の重症度、麻痺側下肢深部感覚障害の重症度、下肢グレード、非麻痺側脚伸展筋力、麻痺側脚伸展筋力、移乗動作の15項目を独立変数とした変数増加法によるロジッスティック回帰分析を施行した。尚、非麻痺側及び麻痺側脚伸展筋力は、三菱電機エンジニアリング(株)社製Strength Ergoを使用し、回転速度30r/mで測定した脚伸展トルク体重比[N・m/Kg]を採用した。移乗動作は当科病棟看護師が施行するMotor FIMから移乗動作の項目を採用した。
【結果・考察】ロジッスティック回帰分析の結果、独立変数15項目中、障害側、半側無視、意識障害、下肢グレード、麻痺側脚伸展筋力、移乗動作の6項目が選択され、判別率は87.0%であった。有意なオッズ比を認めた項目は、障害側(オッズ比0.17)、下肢グレード(オッズ比38.26)、麻痺側脚伸展筋力(オッズ比17.14)、移乗動作(オッズ比15.00)の4項目であった。以上の結果から、前回の報告同様に発症から30日以内の片麻痺患者の病棟内自立歩行の可否には、麻痺側下肢運動機能と移乗動作の影響が強く、急性期から積極的な麻痺側下肢筋の廃用予防と強化、および移乗動作の獲得のための理学療法プログラムが必要であることが示唆された。