抄録
【目的】
臨床の場面において,トイレ動作の自立がニードとして多くあげられるが,自立度判定の指標となりえる評価項目についての研究は少ない。我々の先行研究において,NTPステージとFIMのセルフケア,歩行において強い関連性が認められ,Berg Balance Scaleとトイレ動作の関連性に若干の知見を得た。実際の臨床場面において経験年数の少なさからも自立度判定の基準に悩まされることも多い。そこで今回,トイレ動作自立度判定において有用な評価項目についての検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者58名(男性37名,女性21名)で,平均年齢66.0±13.0歳,発症日からの日数は693.3±1235.2日,なお著しいコミュニケーション障害を呈し指示理解困難な者は除外した。これらをFIMの基準によりトイレ動作自立群(A群)32名、非自立群(B群)26名に分類し,Berg Balance Scale(以下BBS),NTPステージ,Functional Reach Test(以下FRT),10m最大歩行速度(10mMWS),Timed Up&Go Test(以下TUGT)を測定した。トイレ動作と各評価指標をKendallの順位相関係数,A,B群間の比較をマンホイットニーU検定にて検討した(有意差1%水準)。さらに自立獲得の目安としてカットオフ値の算出を行い,トイレ動作自立度と強い関連性を示す項目の算出においては変数減少法の重回帰分析を用いた。
【結果】
トイレ動作の自立度と,BBS,NTPステージ,FRT,10mMWSにおいて強い相関関係が認められた。A,B群間の比較においてBBS,NTPステージ,FRT,10mMWSで有意差を認め,これらの項目に対して変数減少法を用いた重回帰分析を行った結果,BBS合計点が選択された(r=0.753)。さらにBBS項目別で14項目中有意差の見られた12項目に対して重回帰分析を行った結果,「移乗(r=0.70)」「上肢前方到達(r=0.69)」「床からの拾い上げ(r=0.53)」「左右の肩越しに後ろを振り向く(r=0.59)」が最終的に選択された。A群におけるカットオフ値はBBS合計点で41点,FRTで19.1cm、10mMWSで15.89秒という値が算出された。また今回,TUGTでA,B群間での有意差は認められなかった。
【考察】
今回、脳卒中片麻痺患者のトイレ動作自立度を判定する指標について検討した結果,BBSの合計点,項目別共に有意な関連があることが示唆された。重回帰分析により最終的に選択された項目においては,トイレ内でのターン動作や立位バランスを要するものであり,トイレ動作において難易度の高いといわれている更衣動作に関与していると思われる。また今回,有意差の見られた項目ごとのカットオフ値の算出も行い,FRT,10mMWSにおいても有用な結果が得られているため,これらの指標も今後臨床場面においてトイレ動作自立度判定の基準として有効な指標になりえるものと考える。