抄録
【目的】 我々は、第41回日本理学療法学術大会において
Lee らの報告に従い腰痛患者の腰仙連結の可動性評価を行
い骨盤帯の回旋位を判定した。そして、骨盤後方回旋側の
SLR 角は、前方回旋側と比べて有意に小さい値を示したこ
とを報告した。
今回、同手法で腰仙連結可動性評価を行い、骨盤後方回
旋を抑える方向に運動療法を行うことで、骨盤後方回旋側
のSLR 角が変化するかを調査したので報告する。
【対象・方法】対象は当院整形外科より理学療法依頼のあ
った腰痛患者9名である。診断名は、腰椎椎間板障害1名、
変形性腰椎症1名、腰椎分離症1名、腰痛症6名である。
性別は男性7名、女性2名、平均年齢63±11.9歳、平均身
長170.2±7.4cm、平均体重65.3±10Kgで、治療までの期間
は17.2±11日である。腰仙連結の可動性評価は、前回と同
じく、A :屈曲/左回旋/側屈か、B :伸展/右回旋/側屈運動
のどちらに制限があるかを徒手的に判定する。Aが保たれ、
Bの可動性障害があれば、水平面上で骨盤は左回旋(左後
方回旋)を示し、逆に、Bが保たれ、Aの可動性障害があれ
ば、右回旋(右後方回旋)と判定する。そしてそれぞれの
骨盤後方回旋側のSLR 角を測定し、これを運動前の値とす
る。症例への運動療法は、A : 屈曲/左回旋/側屈障害があ
れば、腰仙連結には屈曲/左回旋誘導として、背臥位他動
的カールアップと左股関節の屈曲運動を行い、B :伸展/右
回旋/側屈障害があれば、伸展/右回旋誘導として、腹臥位
他動的プレスアップと左下肢伸展挙上運動を行う。これら
は同一の理学療法士が指導し、痛みの無い範囲で他動的・
自動的に数回行った。運動後、同側のSLR 角を測定し、運
動前後の値を対応のあるt-検定を用いて統計処理を行った
(p<0.05)。
【結果】骨盤後方回旋側のSLR角は、運動療法前71.5±5.4°、
骨盤後方回旋を抑える方向への運動療法後 80.6±6゜とな
り、有意差が認められた(p<0.01)。
【考察】腰痛患者の腰仙連結の可動性評価から骨盤帯の後
方回旋側を判定し、これを抑える方向にそれぞれ他動・自
動運動を行い、運動療法前後で骨盤後方回旋側のSLR角の
変化を調査した。その結果、SLR角は運動療法後に、全例
改善することができた。このことは、腰仙連結の可動性障
害に応じて骨盤後方回旋を抑える方向に運動を行うことで、
骨盤後方回旋に伴う同側の仙骨のうなずき運動により生じ
た仙結節靭帯や骨間靭帯の緊張が緩められ、結果としてハ
ムストリングスの伸張性が改善されたのではないかと考え
られた。以上より、SLR角に左右差が認められる症例にお
いては、腰仙連結の可動性評価を行いながら骨盤後方回旋
を抑える方向に運動指導することの必要性が考えられた。