抄録
【目的】
当院では人工股関節全置換術(total hip arthroplasty: 以下THA)後の歩行補助具として主に松葉杖を使用してきた.しかし習熟に時間を要す症例もあったため,2002年よりクリニカルパス導入とともに歩行補助具を四脚型歩行器とし術後早期歩行獲得を試みている.今回,歩行補助具の違いが歩行獲得までの日数や使い易さに差があるかどうかを目的とし検討を行った.
【方法】
対象は,過去6年間に当院にて変形性股関節症により片側THAを施行された62例(男性10例,女性52例,平均年齢67.7歳)とした.使用した補助具別では,四脚型歩行器40例,四輪型歩行車15例,松葉杖7例とし,検討項目は,(1)補助具開始までの日数:平行棒内歩行練習開始から歩行補助具使用までの日数,(2)病棟歩行開始までの日数:歩行補助具使用開始から非監視下での病棟歩行が可能となるまでの日数とした.検討項目に対し四脚型歩行器,四輪型歩行車,松葉杖の3群を一元配置分散分析及び多重比較を用いて比較した.また,荷重制限の有無による比較は,四脚型歩行器40例(有11例,無29例)と四脚型歩行器以外(四輪型歩行車・松葉杖)22例(有5例,無17例)の2群をMann-Whitney U-testにより比較した.なお統計学的検定における有意水準は5%未満とした.
【結果】
術後平均在院日数は四脚型歩行器32.3日,四輪型歩行車35.0日,松葉杖51.8日であり,理学療法開始までの平均日数は四脚型歩行器5.3日,四輪型歩行車6.4日,松葉杖8.5日であった.補助具開始までの平均日数では,四脚歩行器が1.5日,四輪型歩行車が5.5日,松葉杖が9.4日で四脚型歩行器が有意に短く,歩行補助具への移行が早かった.病棟歩行開始までの平均日数は,四脚型歩行器が3.3日,四輪型歩行車が6.5日,松葉杖が10.9日で四脚型歩行器が有意に短く,早期に病棟歩行が獲得されていた.荷重制限が有る場合において,補助具開始までの平均日数は,四脚型歩行器が1.3日,四脚型歩行器以外が11.6日で,四脚型歩行器が有意に短く,また病棟歩行開始までの平均日数も,四脚型歩行器が6.0日,四脚型歩行器以外が12.6日で四脚型歩行器が有意に短くなった.荷重制限が無い場合においても,補助具開始までの平均日数は,四脚型歩行器が1.6日,四脚型歩行器以外が5.3日,病棟歩行開始までの平均日数は,四脚型歩行器が2.3日,四脚型歩行器以外が6.5日であり四脚型歩行器が有意に短くなった.
【考察】
今回の結果より,荷重制限の有無に関わらず四脚型歩行器使用群は四輪型歩行車・松葉杖使用群より歩行補助具への移行が早く,早期に病棟歩行自立が可能であった.これらのことから四脚型歩行器を歩行補助具として導入することにより,THA後療法期間の短縮や在院日数の短縮の可能性があることが示唆された.