理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 943
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骨・関節系理学療法
認知運動療法を実施した腓骨神経麻痺の一例
*信迫 悟志塚本 芳久
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抄録
【はじめに】認知運動療法の基礎となる認知理論では、運動とはヒトが環境世界と相互作用を行い、世界を認知する手段であり、運動機能回復はその総体としての認知過程を正しく活性化できたかにかかっていると考えている。そこで今回、腓骨神経麻痺の病態を、足部と床との相互作用の障害と捉え、従来の筋力増強・関節可動域訓練ではなく、相互作用の視点から治療的に介入し、良好な結果を得たので報告する。
【症例】58歳女性。H18.9.5転倒して左大腿骨頚部骨折受傷。9.11左人工骨頭置換術施行後、左腓骨神経麻痺を発症。9.12より、リハ開始。開始当初の腓骨神経支配筋群の筋力は徒手筋力検査にて、全て1であった。平行棒内歩行では、遊脚期に下垂足があり、立脚初期の床への接地は足底全面接地であった。足関節背屈時に、「足が重い」と記述した。
【治療内容】歩行における腓骨神経支配筋群の機能的役割は、遊脚相において円滑な推進を果たすために、地面から足趾をクリアさせる事と、緩衝を果たすために、踵接地を行い、更に踵接地から足底接地にかけて足関節底屈力を減速させる事である。これらの機能は、足部と床との間で空間情報・接触情報を収集・選択し運動プログラムを組織化していると考え、1.単軸不安定板での足部と床との距離の認知課題(空間課題)2.足底でのスポンジの反力の認知課題(接触課題)を設定した。更に足関節背屈時の「足が重い」という記述から、前足部を持ち上げる際の重量の予測が行えない状態にあるという仮説を立て、3.重量の認知課題(接触課題)を行った。全ての課題は閉眼して視覚を遮断した上で実施した。まず健側で解答してもらい、問題解決に必要な情報の選択を十分に理解した後で、患側にて実施した。問題解決に必要な身体運動は他動運動より開始し、徐々に介助を減らす事によって自動介助運動、自動運動で遂行してもらった。
【結果】H18.10.20には、徒手筋力検査にて前脛骨筋と長短腓骨筋4、長趾伸筋と長母趾伸筋3となった。歩行時、下垂足はなく良好な遊脚相がみられ、踵接地も認められるようになった。足関節背屈時に、「足が軽くなった」と記述した。
【考察】末梢神経障害は、回復に一定期間を要すが、その期間中も、身体と環境との相互作用は続いている。そのため、誤った運動学習をしてしまう場合が少なくない。本症例では足関節背屈において、股関節屈筋群や膝関節屈筋群、足関節底屈筋群で筋緊張の亢進と代償運動が認められた。そこで腓骨神経支配筋群本来の機能の再組織化に向けて、空間情報・接触情報を選択できるようにするための認知課題を施行した。その結果、筋力が3~4の回復段階で、正常な歩行動作が獲得できた。中枢神経障害だけでなく、末梢神経障害においても、筋力の回復だけでなく、運動学習に配慮した治療が必要であると考える。
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© 2007 日本理学療法士協会
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