抄録
【目的】昨年度までの本学会において化膿性脊椎椎間板炎(以下、PSD)に対する当院での理学療法現状、経過の報告を行った。今回は、運動機能に着目し、外来にて理学療法の経過を追えた一症例を報告する。なお、個人情報は、各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとする
【症例】54歳女性。発熱、激しい腰痛の出現にてPSD発症、当院入院となった。胆管、膵管合流異常の合併があり、まず外科にて手術施行。左腸腰筋膿瘍、L4/5PSD、硬膜外膿瘍に対しては抗生剤投与、安静臥床にて加療し、2ヶ月で退院。腰痛が残存した為、発症後4ヶ月よりダーメンコルセット装着下にて理学療法開始となった。画像所見として、単純X線像にてL4/5の椎間板消失、L5/S1は椎間板腔の狭小化を認め、MRIでは発症から半年後において経過良好であった。
【理学療法経過】開始時所見では、股関節の可動域制限・明らかな麻痺・感覚障害は認めなかった。筋力はMMTにて大殿筋、中殿筋、左腸腰筋4レベル、他筋は5レベル。SLR test、FNSTは両側とも陰性であった。疼痛は、起床時に強く、長時間の坐位で腰背部痛が出現。左股関節開排動作で股関節前面、腰痛がみられ胡坐は困難。歩行では左腸腰筋の筋力低下と思われる跛行を認めるが、間欠性跛行などはなく、屋外独歩可能であった。理学療法は、1回/週 程度の頻度で、腰部に負担がかからない範囲で股関節周囲筋を中心に筋力強化練習を施行した。発症後7ヶ月でダーメンコルセットを外し、体幹の可動域練習を開始。腰背部痛は、前屈、後屈動作とも出現。腰椎レベルの可動性はほとんどなくFFDは28cmであった。発症後11ヶ月、軽度跛行の残存を認め、日本メディックス社製MICRO FET2での腸腰筋の筋力は、右36.5Nm、左32Nmと若干の左右差を認めた。腸腰筋の短縮テストでは、両側とも陰性。腰椎レベルの可動性拡大を認めFFDは7cmまで改善した。開排時、起床時の腰背部痛は軽減し、胡坐、軽い走行が可能となった。また、理学療法の経過の中でPSDの再燃を思わせる炎症所見はみられなかった。
【考察】罹患部位は、椎間板の消失、椎体癒合のため可動性は消失する。隣接椎間においても長期安静、疼痛、瘢痕化の影響により可動性が低下すると思われる。体幹の可動域練習を施行する際、他の腰椎レベルの可動性再獲得が必要と考える。また、腸腰筋膿瘍に関しては、発症から約11ヶ月後でも若干の筋力低下が残存しており、同筋の強化により跛行の軽減を得ることが出来た。PSD、腸腰筋膿瘍の症例に対する理学療法は、病態を把握し、経過に合わせた運動機能獲得が必要であると考える。