抄録
【はじめに】足部は唯一地と接している部位であるため,足部からのアプローチは姿勢制御や機能障害に対して最も有効的だと考えられる。今回,保存にて長期間痛みが軽減しなかたものが入谷式足底挿板(インソール)により劇的に痛みが緩和された症例を経験したので,本人との同意のもとで報告する。【症例紹介】30歳女性。約13年前の高校生時代,運動部に在籍した当時から左足背面の骨が出っ張り,違和感を感じる様になった。それ以来,最初は2日程で骨が引っ込んでいたが最近は2週間続くようになった。歩行時,親趾に体重が乗ってくると骨の出っ張りが皮膚を突き破りそうな感覚があり痛いとのことであった。【レントゲン所見】左内側楔状骨背側面に小さな骨膿腫の疑い有り。関節症性変化が認められた。【理学療法初期評価】床面から内側楔状骨背面までの垂直距離は右5.0cm,左5.3cmで左足部の同部位での隆起が認められた。足関節背屈ROMは右15°左10°,底屈は右65°左50°で制限が認められた。痛みは左足背面内側楔状骨付近と前脛骨筋筋腹の疼痛が著明であった。自覚的疼痛評価(VAS)は6であった。ビデオ撮影からの映像から算出した歩行立脚期所要時間(立脚期時間)の比較では,立脚期の平均時間は裸足時右下肢0.75±0.05min.,左下肢0.76±0.05min.とほぼ同じであった(NS)。【治療】インソールを作製した。インソールの基本的な形状は左足は距骨下関節回外・第一列底屈・外果部挙上・前足部横アーチは234列中足骨背屈とした。右足は距骨下関節回外・第一列挙上・外果部挙上・前足部横アーチは234列中足骨背屈とした。【最終評価】約1ヶ月後の評価での改善点は,床面から内側楔状骨背面までの垂直距離は両足部とも約0.5cm短縮し、左足部ROMも背屈15°,底屈65°と改善した。痛みも軽減しVASは1であった。立脚期時間の比較では,右下肢0.76±0.05min.,左下肢0.70±0.05min.と明らかに左下肢の立脚期時間は右下肢より短縮しており(p<0.001),裸足時と比較しても明らかに短縮していた(p<0.001)。【考察】本症例は歩行時踵接地から足底接地に痛みを訴えたことにより,前脛骨筋(TA)に牽引ストレスが長期にわたり加わった結果,痛みと内側楔状骨部の突出変形が生じたものと予測された。インソールが痛みを緩和させた理由は立脚期にスムーズに下腿を前方へ移動し,足圧中心を母趾方向へ早期に移行させ,立脚期時間を短縮したことでTAの牽引ストレスを軽減させた結果だと考えられた。インソール装着時の左下肢立脚期時間が裸足時や右下肢より明らかに短縮していたことは,これらを立証させる結果となった。左足部底屈ROMが拡大したのは,インソールによりTAの牽引ストレスが軽減し,過緊張が緩和されたことによるものであり,左足部背屈ROMが拡大したことは立脚期の下腿の前方移動がスムーズに行われ足関節の背屈が促通された結果だと考えられた。