理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1364
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骨・関節系理学療法
寒冷療法が疼痛に及ぼす影響
施行部位の違いによる鎮痛・満足度の評価
*雫田 研輔青木 幹昌高橋 友明畑 幸彦
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抄録
【はじめに】一般的に,外傷や整形外科手術後の急性期において,炎症や疼痛の軽減を図る目的で,寒冷療法(持続冷却装置,コールドパック,アイスパック等)が適応されることが多い.しかし,その効果を疑問視する報告も散見される.
そこで,われわれは人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の回復期における寒冷療法の効用について再考する目的で,適応部位による違いが疼痛の緩解や患者満足度にどのような影響をおよぼすかについて調査したので報告する.
【対象と方法】対象は当院において変形性膝関節症に対してTKAを施行された 8例8膝で,検査時年齢は平均70.5歳(62~83歳),性別は全例女性であり,手術側は右3膝,左5膝であった.なお,調査は術後1週から2週の間に行った.
方法は,まず理学療法施行後に全例に対して術側膝関節に15分間コールドパックを実施し,皮膚表面温度,疼痛および満足度を測定した.後日,全例に対して前額部に対しても同様の処置を行い,皮膚表面温度,疼痛および満足度を測定した.皮膚表面温度は簡易型赤外線温度計測器(ポケットサーモ)を用いて(1)冷却前(2)冷却直後(3)冷却終了後15分経過時点で測定した.同時に,疼痛はVisual Analogue Scaleを使用し,痛みなしを0点,最高の痛みを100点として疼痛の程度を10cmの線上に示させた.さらに,満足度を100点満点として自己評価させた.膝関節を冷却した時のデータ群をA群,前額部を冷却した時のデータ群をB群として,2群間で皮膚表面温度,疼痛および満足度についてマン・ホイットニ検定を用いて有意差検定を行い,危険率0.05未満を有意ありとした.
【結果】冷却部位の皮膚表面温度は,冷却終了直後では冷却前よりA群が3.3±1.0°C低下,B群が3.5±0.7°C低下し,冷却終了15分では冷却前よりA群が0.3±0.5°C低下,B群が0.5±0.5°Cと低下したが,2群間で有意差を認めなかった.疼痛は,A群が18±15点,B群が26±13点で両群ともに低かったが,2群間で有意差を認めなかった.満足度は,A群では97.5±4.3点,B群では96.6±6.5点と両群ともに高い満足度を示したが,2群間で有意差を認めなかった.
【考察】寒冷療法は急性炎症期に実施することが推奨されているが,急性炎症期を過ぎた1~2週においては患部を冷やしても前額部を冷やしても,高い鎮痛効果と満足度が得られることが分かった.また,25°C付近で冷覚受容器の発火頻度が最も高くなるとの報告があり,今回の寒冷療法が直接的鎮痛効果を示したとは考えにくい.したがって,この時期の寒冷療法は精神的慰安の傾向が強いように思われるので,患部を冷やさなくても前額部を冷やすだけで高い鎮痛効果と満足度を得られる可能性が示唆された.
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© 2007 日本理学療法士協会
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