抄録
【はじめに】結節性多発動脈炎(PN)は、中・小血管の血管全層にわたり炎症が起こる自己免疫疾患である。これまで末梢神経障害を伴ったPN患者に関する報告は認められるが、その他の報告は少ない。今回PNに重複障害を伴った症例を経験し若干の知見を得たので報告する。
【症例紹介】79歳女性。H9年脳出血発症。H13年9月より両下肢痛、咳嗽出現。10月より下腿浮腫、下肢紅斑出現し、10月下旬に右肺中葉症候群、PNと診断。H14年4月までに7回のエンドキサンパルス療法施行後、プレドニゾロンは15mgに減量され以後漸減された。H17年脳梗塞発症。平成18年6月12日転倒し右大腿骨頸部骨折受傷、手術目的で当院入院。6月19日ハンソンピン固定術を施行し、21日より理学療法開始。プレドニゾロンは5mg内服していた。今回の報告についての説明は口頭および紙面で行い同意を得た。
【入院時現症(H18年6月21日)】意識清明、言語機能良好。脳神経正常。感覚検査で両側の踵と足趾に触・痛覚中等度鈍麻を認めた。ROM-T(右/左)では股関節屈曲95/125、膝関節屈曲135/155。MMT(右/左)では上肢4レベル、腸腰筋3/4、内転筋群1/4、中殿筋1/4、大腿四頭筋4/5、ハムストリングス3/5、前脛骨筋4/4であった。基本動作は移乗軽介助、その他は自立。ADLはBI 65点、歩行は平行棒内監視であった。胸部X-Pに異常所見はなかった。生化学検査はWBC 11300 /μl、CRP 0.7mg/dlであった。
【経過】H18年6月21日より理学療法(ROM・筋力増強・起立・歩行訓練)開始。訓練は1日40分、週5~6回実施した。訓練開始1ヶ月で右4点杖と左T字杖の歩行が近位監視となるが、7月28日に転倒し右橈骨遠位端骨折受傷。可及的に運動療法を継続し、訓練開始約4ヶ月で自宅退院に至った。退院時現症としてMMT(右/左)は、腸腰筋4/4+、内転筋群3+/4、中殿筋4/4、大腿四頭筋5/5、ハムストリングス4/4、前脛骨筋4/4であった。基本動作は全て自立となり、ADLはBI 85点であった。歩行はシルバーカー歩行自立、右T字杖歩行近位監視であった。生化学検査は、WBC 9600 /μl、CK 30 IU/l、CRP 0.15 mg/dlであった。
【考察】坂田らは、PN患者に対し薬物療法に加え病初期から積極的に運動療法を行なった結果、長期の運動療法によりADLの改善が期待できると報告している。本症例においては、通常のハンソンピン固定術後患者と比較してADLの改善に期間を要しており、さらに入院中の右橈骨遠位端骨折が期間を延長する要因となった。しかし、約1年という期間に脳血管障害と骨折の重複障害を合併したにも関わらず、PNの症状が安定していた本症例においては、訓練にある程度時間はかかったが、ADLの改善を認め自宅退院に至った。