理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 808
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内部障害系理学療法
腰背部筋群への他動的アプローチが背臥位咳嗽力、呼吸機能へ及ぼす影響について
*三木屋 良輔亀井 裕子田中 毅畠中 耕志中川 司森野 恭典
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抄録
【目的】呼吸器疾患や胸心外科術後患者において、分泌物除去を目的とする有効な咳嗽を行うことは気道クリアランスの面からも重要である。咳嗽力は、端坐位>ファーラー位>背臥位の順に弱くなり、中でも1秒量が低くなるという報告があり、背臥位安静が強いられヘッドアップの出来ない症例においては、気道クリアランスが低下している可能性がある。過去の報告では背臥位においても咳嗽時の胸郭の呼気介助や、胸郭の柔軟性を高めるようなスクイージング等が有効であるとされている。しかし、背臥位において筋緊張の亢進している腰背部筋群へのアプローチを定量的且つ他動的に実施し、咳嗽力や呼吸機能への影響を検証した報告は少ない。今回、腰背部筋群への定量的なアプローチとして下肢・骨盤振り子運動(以下振り子運動)を実施し、背臥位での咳嗽力、呼吸機能への影響について若干の知見を得たので報告する。

【方法】はじめに振り子運動が腰背部筋群へどの程度影響するかを検証するため健常人10名を対象に、コントロール群(5分間背臥位安静)と、振り子運動群(5分間背臥位、振り子運動300回)を5名ずつに分けて実施し、各群前後で立位からの指床間距離(以下FFD)を比較しt-検定(P<0.05)にて検証した。結果、振り子運動群の実施後においてFFDが有意に改善し、これは股関節・腰背部の筋緊張が緩和したものと捉えた。これをもとに健常人8名に対し、コントロール群、振り子運動群4名ずつに分け、各群の咳嗽力、呼吸機能への影響を検証した。評価項目は、胸郭拡張差(腋窩、剣状突起)と咳嗽力の指標としてスパイロメーター(ミナト医科学社製SYSTEM7)にて肺気量分画(VC)、フローボリウム(FVC)を背臥位で測定した。

【結果】振り子運動後ではピークカフフロー(PCF)、予備呼気量(ERV)が有意に低下し最大吸気量(IC)、予備吸気量(IRV)は有意に増加した。但し胸郭拡張差においては各群ともに有意差はなく、各呼吸機能値との間に相関もみられなかった。

【考察】今回実施した振り子運動の理論背景はスリングセラピーであり、目的は腰背部の筋緊張を緩和するものである。結果においてPCF、ERVが有意に低下しIC、IRVは有意に増加した。これは振り子運動が腰背部筋群中の呼気筋、特に腰方形筋等の筋緊張と咳嗽力を低下させた可能性がある。また胸郭拡張差に有意な変化は無かったものの吸気量が増加したのは、腰背部呼気筋緊張の減少が、相反的に吸気を円滑にさせたものと考えられる。

【まとめ】今回、背臥位咳嗽力に対する腰背部への他動的アプローチとして振り子運動を実施した。結果吸気量は増加し、振り子運動が吸気を促すための定量的且つ他動的な治療法として有効である可能性も示唆された。しかし咳嗽力の低下がみられ今後、呼吸筋力の評価や呼気時の胸郭介助と組み合わせた検証等も必要である。
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© 2007 日本理学療法士協会
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