抄録
【はじめに】一般的に入浴は、温熱効果、静水圧効果、浮力効果など人体に多くの効果をもたらす。当院では日常的に人工呼吸管理中の患者に対して入浴を実施している。これまで人工呼吸管理中の患者の入浴に関する報告には、方法・手順をリスク管理の視点から述べているものはあるが、入浴による呼吸・循環動態の変化に関しての検証例はほとんどない。そこで今回我々は、介助入浴が人工呼吸管理中患者の呼吸・循環動態へ及ぼす影響について検討したので報告する。
【対象】当院で人工呼吸管理中であり、体温37°C以下で炎症所見がなく、医師から入浴許可を得た患者9例(男性6例、女性3例、平均年齢72.3±10.7歳)とした。内訳は、中枢神経疾患が8例(うち2例がCOPDを合併)、COPDが1例だった。
【方法】対象者は、かけ湯・洗体・40°C温浴を含む20分間の介助入浴手順に従い全介助での入浴を実施した。入浴前後30分間は安静仰臥位とした。入浴時の呼吸管理にはジャクソンリース回路(タイコヘルスケアジャパン)を使用した。入浴開始前に昇降式リフトトロリー(ボレロ、日本アビリティーズ社)へ全介助にて移乗した。浴槽は水圧昇降式入浴装置(システム2000、日本アビリティーズ社)を使用し、水位は剣状突起までとした。脈拍、酸素飽和度(SpO2)、呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO2)、呼吸数(RR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)は、入浴開始10分前から入浴終了30分後まで測定した。モニターはDYNASCOPE(DS-7141、フクダ電子株式会社)を使用し、脈拍、SpO2、ETCO2、RRは1分間隔、SBP・DBPは2分間隔で測定した。入浴前安静時と入浴中、入浴後の測定結果を比較するために、対応のあるt検定(有意水準5%)を使用した。
【結果及び考察】入浴前安静値は、脈拍71.0±5.3回/min、SpO298.1±0.7%、ETCO235.4±2.4mmHg、RR16.3±2.2回/min、SBP117.3±4.9mmHg、DBP71.0±2.5mmHgだった。安静値と比較して、SpO2は入浴前4分から入浴後6分まで有意に上昇した。ETCO2は入浴直後の1分以外に有意な変化はなかった。SBPは入浴前6分から入浴後8分まで、DBPは入浴前6分から入浴開始後16分まで有意に上昇した。これらの結果から、ジャクソンリース回路を用いた今回の介助入浴手順では入浴による生理的な刺激が呼吸状態に大きく影響しないこと、移乗時の物理的刺激と湯温(40°C)による温熱刺激が血圧上昇に影響を及ぼしたことを示唆した。今後は得られた指標を元に、より安全で確実なリスク指標を設定していく。