理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 391
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生活環境支援系理学療法
農村部高齢者におけるバランスマットを用いた運動の短期効果
*三好 圭横川 吉晴大平 雅美
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抄録

【はじめに】高齢者の転倒の一因として姿勢制御能力の低下があげられる.この姿勢制御機能に作用する運動として,不安定板が簡便かつ有効であるとされているが,高齢者にとって不安定板に乗ることは高度な技能を必要とし転倒の危険性が一層高くなると思われる.また,介入期間に関しては数週間から数ヶ月の介入を行うことで身体機能が改善したとする報告も多いが短期介入の効果を報告したものは少ない.本研究の目的は,不安定板よりも神経-運動器協調運動の容易なバランスマットを用いて短期間の介入効果を確認することである.
【対象】2006年2月に、長野県M市における老人大学を受講した59人に対して,文書を用い口頭で説明した。本研究に対する同意書を頂いた33名のうち疾病のリスクの高い1名をのぞく32名(男性11名,女性21名)を対象者とした.
【方法】対象者は無作為に対照群(C群)とバランスマット使用群(M群)に分け,足指の運動,四つ這い位保持,ステッピング運動など全7種類の運動をC群は床上で,M群はバランスマット上で約30分間実施した.運動は1回のみ実施した。バランスマット((株)豊田合成)はポリウレタン材で厚さ8cm、タテ60cmヨコ60cmを2枚連結したものを使用した.測定項目は,運動実施前に1)転倒経験,2)老健式活動能力(TMIG),3)姿勢変換時の困難感,4)服薬や通院の有無,5)年齢などを調査した.また,運動前後に6) 全身動作反応時間(RT、竹井機器),7) 開眼片脚立位保持時間(OL),8)重心動揺軌跡長(LNG),9)重心動揺面積(AREA)を測定した.7)は左右行い60秒を上限とした.8),9)はWin-Pod((株)フィンガルリンク)を用い30秒間測定した.解析は男女別に、2群を独立変数、RT,OL,LNG,AREAを従属変数とした反復測定分散分析をおこなった.
【結果】介入前のC群とM群で,転倒経験,TMIG,姿勢変換時の困難感,服薬や通院の有無,年齢に有意差は認められなかった.解析対象を性で層別化したところ、女性のRT(p<0.05)とLNG(p<0.01)では,マットの有無と時間の交互作用が認められた.他の項目で差は認められなかった.男性では差を認めなかった。
【まとめ】女性において、C群のRTとLNGは短縮し、M群は遅延傾向にあった。バランスマット上の運動を週1回90分8週間実施した場合は10m歩行速度,全身動作反応時間,最大一歩幅に有意な改善を認めたとの報告があるが,今回のように1回の運動では有意な改善は認められなかった.これは,高齢者は刺激に対する適応能が低いため即時性の効果は期待できなかったためと思われる.また,全身動作反応時間がバランスマットよりも床上で運動した群の方が低下したのは,バランスマット上での運動が高齢者にとっては過負荷であったため,疲労の影響が出てしまったためと考えられる.従って,高齢者を対象に運動の介入効果を検討する場合,1回の介入では効果が得られにくいことが示唆された.

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© 2007 日本理学療法士協会
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