抄録
【目的】
一般に簡易型車椅子では、身長の低い高齢者が下肢駆動あるいは片手片脚駆動をする際には困難さを伴う。また両手駆動において円背坐位は坐骨坐位に比べて駆動効率が悪いという報告はあるが、片手片脚駆動における同様の研究は見当たらない。我々は、片手片脚駆動において姿勢が及ぼす影響を検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人女性15名(平均年齢22歳、平均身長156cm、平均体重53kg)である。計測には後輪駆動式車椅子を用い、駆動中の脈拍、一回換気量を計測するため、携帯型呼気ガス分析器META MAX(CORTEX社製)を装着させた。円背は疑似体験セットで作った。駆動回数を記録するためにビデオカメラを使用した。坐骨坐位(Zacrum sitting; ZS)、円背坐位(Round sitting; RS)の2条件とし、1周10mの円を3分間快適速度で駆動させた。駆動は外側、内側、8の字の3方向とした。6試行を無作為に測定し、各条件間には5分以上の休息を設けた。パラメーターは駆動速度、上下肢それぞれの駆動回数を距離で除したもの(以下駆動回数)、一回換気量、PCIとした。統計は危険率5%とし、ZSとRSの各方向の比較は対応あるt-検定、各坐位での駆動方向は一元配置分散分析をそれぞれ用いた。
【結果】
駆動速度(m/min)では、外側、内側、8の字の順でZSが42.0、33.8、39.2。RSが34.8、28.1、32.6と有意に遅かった(p<0.01)。上肢駆動回数(回/m)では3方向でZSが1.4、1.4、1.3となり、RSが1.8、1.8、1.7と有意に多かった(p<0.05)。下肢駆動回数では両群に有意差はなかった。一回換気量(l)では、ZSが0.55、0.52、0.53。RSが0.51、0.50、0.51であり、外側と8の字でRSは有意に少なかった(p<0.05)。PCI(拍/m)では、ZSが0.35、0.49、0.36。RSが0.50、0.61、0.50となり、RSが3方向で有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
ZSとRSとの比較を行ったが、片手片脚駆動において、先行研究と同じくRSの方が効率の悪い結果になった。RSでは駆動輪にかかっていた重心がキャスター方向へ移動することになり、転がり抵抗が駆動輪よりキャスターの方へ掛かることを意味し、効率は悪くなったと考えられる。RSでは脊柱後弯となり腹部臓器が横隔膜を押し上げ、横隔膜の運動が制限されることで一回換気量が減少したものと考えられた。RSでは、ハンドリムに手が接触する範囲が前方で狭小化して、推進が低下するため駆動回数が増加を示した。
上下肢の駆動回数では身長の低い者ほど多い傾向ある。片手片脚駆動では踵から母趾へ推進力が不足し、蹴り出しが困難となるため回数が増えることも考えられ、PCIが増加したものと考えられた。