理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1013
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物理療法
温熱が頭髪の張力緩和に与える影響
*木山 喬博鳥居 昭久
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抄録
【目的】物理療法の効果の一つに生体軟部組織の伸展性や粘弾性の向上が得られると、物理療法の成書に記述されている。しかし、温熱の伸展性向上効果の程度に関する具体的な報告は多くないし、成書にも具体的な記述が無い。腱や筋肉を対象とすべきであるが、いたずらに動物の生命を犠牲にする前に、主としてコラーゲン線維で構成されている頭髪に対する温冷刺激によって物理的力学特性がどのように変化するかを確認するため、測定装置を工夫して、観察した。
【方法】対象は、太さ約80μm、長さ40~60mmの頭髪とし、その一端を固定して、他端を荷重変換器と変位計を直列に組み込んだ伸長機に連結し、伸長量と張力を同時測定した。頭髪の歪10%伸長を常温(22.4~±0.6°C)で5分間保持した後、注水温度を10.7±1.4°Cから40.6±2.6°Cに変化させた場合の頭髪の張力を測定した。一定温度に保った水を頭髪部分に注ぎ、温度を熱伝対温度計と赤外放射温度計で監視しながら実験を行った。
【結果】温度、約10、20、40°Cにおける歪10%伸長時の初期(ピーク)張力平均は26.8g、23.4g、22.0gであり、温度が高い方が張力が小さく伸び易かった。10、20、40°Cでの5分間伸長保持時の張力緩和(張力の経時的減少)は初期張力の68.2、69.0、69.5%で、その初期の5秒間の緩和は80.7、82.0、83.7%であり、5分間の緩和率の約60%を占めていた。初期の緩和率は非常に高かった。温度の違いによる緩和率への影響は小さかった。一方、平均10.7°Cから40.6°Cへの温度上昇で、張力が4.13±0.83g減少し、これは初期張力22.3gの18.5%減に相当していた。歪10%伸長時の伸展性の温度依存は0.14g/°Cであり、10°Cの温度上昇で張力の約6%の伸展性向上が見込まれた。他方、40.0°Cから13.3°Cへの変化においては2.71±1.11g張力が増加し、初期張力24.9gの10.9%増となり、冷却で伸展性は低下した。
【考察とまとめ】物理療法の成書には、温熱による組織の伸展性向上に関する具体的な記述がない。頭髪で実験した結果、温熱刺激によって頭髪の伸展性が向上した。これは、粘弾性を有する頭髪の物理的性質への温度の影響と考えてよさそうである。人体組織の加温は皮膚表面で約8°C程度が限界と思われ、物理的伸展性向上効果は5%前後に留まるものと推測される。生体での熱作用は物理的変化だけではなく、神経系を介しての変化が総合的に絡むため、実験装置をいま少し改良し、筋や腱への温熱の影響を今後確認する課題が残された。
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© 2007 日本理学療法士協会
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