抄録
【目的】超音波療法の治療作用には,振動によってもたらされる温熱作用と振動そのものによる非温熱作用が期待されている.しかし超音波(以下US)に特有である振動作用が与える影響については未解明な面が多い.また,神経痛に対するUS療法の効果が報告されて以来,末梢神経を対象にした研究報告がなされてきたが,その効果と振動作用の影響については不明である.この原因のひとつに先行研究の多くが両作用を分離しないままにその効果を論じている点にあると考える.そこで今回,US特有の作用である振動作用に着目して、温熱の影響を抑えながら測定できる装置を工夫・作製し,USの影響の有無と程度をカエル坐骨神経の誘発電位を観察して考察することとした.
【対象】カエル7匹より剖出した左右の坐骨神経14本を対象とした.
【方法】US振動の影響の有無と程度を電気刺激(以下ES)による坐骨神経の誘発電位(以下EP)の振幅を測定して考察した.ESとEP測定はMEM3203(日本光電社)で行った.ESとEP測定には10mm間隔の一対ずつの銅線を設置し、一方を正極に、他方を負極とした。測定は、ES1、US導子、ES2、EP電極の順に平面状に配置し、その上に坐骨神経を末梢でEPを導出できるように設置した。ES1によるEPはUSの影響を受け、ES2によるEPはUSの影響を受けない。ES1,ES2で得られた振幅をそれぞれUS影響群と対照群とした。US照射条件は2.0W/cm2,1MHzとした.US照射2分間毎に各ESで電気刺激を行い、その波形を観察した.照射中止条件は振幅に50%以上の変化が出るまでとし,最大照射時間は30分とした.照射中止後30分間,振幅の回復の有無を観察した.US照射による神経表面部の温度上昇を抑えるため,US導子上に寒天(厚:8.0cm)を乗せた上に神経を設置し、一定温度のリンガー液を注水しながら温度も測定した.
【結果】実験中の神経表面部の温度変化は1.4±1.0°Cであった.US照射群で14例中13例において照射30分以内で照射前の50%以下の振幅が観察された.対照群においては振幅の減少は見られなかった.またUS終了後には減少したEPの回復は見られなかった.
【考察】本実験では温度上昇は平均1.4°Cとわずかであり,温熱作用による伝導ブロックが起こったとは考えられない.ゆえに振幅の減少は振動作用によるものと考えられる.振幅の減少は興奮に関与する神経線維数の減少を反映すると考えられ,振動作用が細胞のイオン膜に影響を与えたか機械的ストレスを与えた可能性がある.また,照射中止後にも回復がみられなかったことから神経線維が不可逆的な障害を受けたといえる.これはUS療法を行う際のリスク管理にも関係しうるため,今後もUS照射強度と照射時間による振動の影響を調べていく必要があるのではないかと考える.