抄録
【目的】医療組織では、コ・メディカルと称される専門職が医療サービスを提供しており、専門業務の成果だけを病院組織への貢献と考えられていることも少なくない。しかし、それだけで病院組織が目標とする貢献は満足されているのか、医療機関に所属する理学療法士(以下、PTと略す)並びに作業療法士(以下、OTと略す)に対し調査を行い、専門職がかかえる病院組織への役割認識について検討したので報告する。
【方法】調査対象は、福岡県内18ヶ所の医療機関に所属するPT・OT412名。病院組織に対する役割認識の傾向を把握できるような項目について、基本属性(8項目)、その他に役割認識に関する項目(40項目)を設定。分析は、はじめに記述統計として質問項目ごとに回答度数を単純集計したあと、当初の問題意識の中心として設定した「病院組織への役割認識」に対して、その他の変数との関係をクロス集計およびχ2検定を行った。また、χ2検定を行った質問項目を対象に「病院組織への役割認識」に対する相関係数を分析。さらに、「病院組織への役割認識」に影響を与える要因を分析するためカテゴリカル回帰分析をおこなった。解析には、統計ソフトSPSS11.5J を用いた。
【結果および考察】調査票は412名に配布し、375部を回収(回収率91.0%)、統計解析には欠損値を有さない295名のデータを用いた。基本統計から、「病院組織全体の貢献を行うべき」という意識もあるが「専門分野の知識や技術で成果を挙げること」が組織に対する貢献という意識が強いようである。知識や技術の習得には9割以上が積極的な回答を示したが、学術学会や論文などの発表には消極的。医療業界および自職種に対する将来への危機感は極めて強く存在しているものの、転職に関しては「いざとなればすぐに見つかる」とした回答が多く雇用環境には楽観的であった。この点は、PT・OTが過少供給に加えて厚遇であったための傾向とも考えられる。もっとも、需給関係に関して、厚生労働省は「平成16年以降2年から3年以内に均衡に達し、PT・OTが過剰になることが予測される」と指摘している。「病院組織への役割認識」に影響を与える要因については、カテゴリカル回帰分析の結果、「経営指標の認識」「上司や先輩の態度と関わり」が強い影響を持つことが示唆された。
【まとめ】リハビリテーション領域では高齢化に呼応するかのように、養成校が乱立し急速に専門職の供給が増え需給関係が逆転するような状況も推測できる。有資格者だから専門業務に専念するのみではなく、それ以外の仕事についても病院組織の一員としての役割を十分に認識し、専門職の枠を超え医療環境の急速な変化と社会の深刻な要請に対応できるような考えを常に持つべきではないだろうか。