理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 3
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理学療法基礎系
心拍変動周波数解析から心臓交感神経活動を推定できるか?
高橋 真河江 敏広松川 寛二中本 智子土持 裕胤関川 清一稲水 惇
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抄録

【目的】心拍数は心臓交感神経と迷走神経によって調節されており,運動時には迷走神経活動が抑制され,交感神経活動が増大することで心拍数増加が達成される.このような自律神経活動を非侵襲的に評価する方法として心拍変動周波数解析が挙げられる.心拍変動には周波数の異なる2種類のリズムが存在し,1つは呼吸に同期した変動,すなわち呼吸性洞性不整脈を反映する高周波数(HF:0.15-0.4Hz) 成分であり,心臓迷走神経活動の指標として広く受け入れられている.一方,血圧のMayer波と関連する低周波成分(LF:0.04-0.15Hz)は心臓交感神経活動の指標として用いられることがあるが,否定的な報告も多いのが現状である.そこで,迷走神経は残存するが心臓交感神経は障害されている頸髄損傷者と健常者において,運動中の心拍変動を比較することで,心拍変動のLF成分が心臓交感神経活動を反映するか否かを検討した.また,現在広く用いられている周波数解析法では定常状態にあることを前提としており,運動中のように心拍数が大きく変動する場合には適用できない.そこで,本研究では時間分解能に優れるWavelet法を用いて運動中の自律神経活動を評価した.
【方法】対象は頸髄損傷者(Tetra)6名と健常者(Normal)9名とした.運動負荷様式は肘関節90°屈曲位保持の静的運動とし, 35%MVCの運動強度で疲労困憊まで行った.その間,連続指血圧測定装置(TNO-TPD Biomedical Instrumentation社,Portapres Model2)を用いて血圧,動脈圧波形を記録し,平均血圧(MAP),心拍数(HR)を算出した.さらに,フラクレットシステム(大日本製薬株式会社)を用いて,Wavelet解析を行った.LF成分,HF成分ともに心拍変動の全成分との比をとることで標準化した.
【結果】心拍数は運動初期にNormalに比べTetraでの増加が減弱していたが,運動終了時には両者同程度に心拍数は増加していた.迷走神経活動を反映するHF成分は両者で運動開始から緩やかに低下し,両者でその差はなかった.一方,LF成分はNormalでは運動中増加傾向を示したが,Tetraでは減少傾向を示し,運動中の変化量としては両者に差が認められた.
【考察】TetraとNormalでLF成分の変化に差異があったことは,LF成分が心臓交感神経活動を反映することが示唆される.しかしながら,Tetraにおいて,LF成分とHF成分が同様に低下したことを考慮すると,LF成分には迷走神経活動も関与することが示唆される.
【まとめ】LF成分は純粋な心臓交感神経活動を反映する指標としては妥当ではない.

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© 2008 日本理学療法士協会
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