理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 5
会議情報

理学療法基礎系
温泉療法が慢性疾患患者の血清中tumor necrosis factor-α(TNF-α)へ及ぼす影響
工藤 義弘尾山 純一西山 保弘矢守 とも子中園 貴志
著者情報
キーワード: TNF-α, 温泉療法, 慢性心不全
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
本研究は,温泉療法の改善効果を解明することを目的としている。前回は温泉浴が慢性心不全患者のナチュラルキラー活性(NK活性)機能に与える影響を検討した。今回は温泉浴が慢性心不全の血清中tumor necrosis factor-α(TNF-α)へ及ぼす影響を調べる。TNF-αはナチュラルキラー(NK)細胞などから産生され、炎症反応および細胞の生死(アポトーシス)に関わる因子として生体の免疫系に密接に関わっている。
【方法】
対象:NYHAIII以下の慢性心不全患者(虚血性心臓病5名,心筋症1名)の6名(男性4名,女性2名)。平均年齢:79.6± 6.4歳(平均±SD)。研究の目的と内容に関しては十分にインフォームドコンセントを行った。温泉療法の環境:単純泉を選択した。室内温度を28°Cとし、温泉温度は40度 、入浴時間は10分間 、入浴頻度は毎日で週5回以上とした。入浴期間は2週間、入浴方法としては、半身浴または胸骨の深さまですることとした。温泉療法における安全性の確保と身体機能の把握のため初回時と最終回の前後60分間医師によるバイタルサインのチェツク、及び毎回の前後にバイタルサインのチェツクを行った。さらに適宜、医師による診察、チェツクを行い温泉療法の安全性に関しては慎重に臨んだ。採血は温泉療法前および2週後に血清中のTNF-αを測定した。血清中TNF-αの測定にはenzyme-linked immunoassay (EIA)キット(Biosource社)を用いた。データ処理:Decision of Statistical Analysis。有意差検定:Paired-Student’s-t-test を採用。
【結果】
血清中TNF-αの量は温泉療法開始前と比較して2週間後では低下傾向を示した(開始前: 17.883±9.24pg/ml、2週間後: 12.316±5.045pg/ml)。しかし統計学的な有意差は認めなかった(P =0.335)。
【考察・まとめ】
温泉浴が慢性心不全患者のナチュラルキラー活性(NK活性)やTNF-αへ及ぼす影響を調べることで,温泉療法の改善効果を解明しようと考えている。TNF-αに着眼した理由はTNF-αは炎症反応および細胞の生死(アポトーシス)に関わる因子として免疫応答を調節し、最近は局所炎症の増悪や全身性の痛覚過敏を起こす反応系にも密接に関わっていることが判明したことにある。メカニズムは視床下部や延髄に情報を伝達すると共に、中枢神経系の情報伝達にも関わっているものと推測される。TNF-αはプロスタグランジンprostaglandin(PG)と交感神経系の両系統を活性化すると考えられている。本研究における温泉療法開始前に比べ2週間後のTNF-αの量およびその動態は有意な差が認められなかったが、低下傾向を示した。このことは、温泉療法と痛覚過敏との間には共通の作用メカニズムが存在する可能性が示唆される。

著者関連情報
© 2008 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top