理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 6
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理学療法基礎系
定量RT-PCR法を用いた運動負荷強度の違いによる骨格筋への影響の検討
宮田 卓也田中 正二立野 勝彦高橋 郁文吉本 佳司
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抄録

【目的】骨格筋の肥大,再生には筋衛星細胞が関与していると考えられている.筋衛星細胞は通常休止した状態で存在し,筋分化制御遺伝子であるMyoD familyの発現は見られないが,運動負荷により筋衛星細胞が活性化することが報告されており,MyoD familyの発現は間接的に骨格筋の肥大,再生を示していると考えられる.そこで今回,運動負荷強度の違いによる骨格筋の肥大,再生の影響に関して分子生物学的方法から検討を加えることとした.

【方法】4週齢Sprague-Dawley系雄性ラット26匹を対象とした.運動負荷は小動物用トレッドミルを用い,16度下り坂で30分間連続走行を行った.対象は運動を実施しない対照群(CON群)(n=5),走行速度16,20,24m/min(各n=5),28m/min(n=6)の運動群4つの計5群に分類した.運動負荷終了72時間後にヒラメ筋(SOL),長趾伸筋(EDL)を採取し,Total RNAを抽出した.Random 6mer primerを用いて逆転写反応を行い1st strand cDNAを合成した後,遺伝子特異的custom primer pairを用いてインターカレーター法で定量した.目的遺伝子はMyoD,Myogenin,PCNA(増殖細胞核抗原),内部標準遺伝子はGAPDHとして相対定量値を求めた.統計学的検討にはSteel-Dwass,Scheffeの検定を用いた.なお本研究は金沢大学動物実験委員会承認のもとに実施した.

【結果】MyoDの発現量はSOL,EDLともに有意差を認めなかった.Myogeninの発現量はSOLにおいて16m/minと28m/min運動群間で有意差を認めた(p<0.05).PCNAの発現量はSOLにおいて運動群全群でCON群よりも有意に低値を示し(p<0.01),EDLにおいては16m/minと24m/min運動群間で有意差を認めた(p<0.05).また20,24,28m/min運動群はCON群,16m/min群と比較して低値を示す傾向があった.

【考察】今回の運動負荷ではEDLよりSOLの方が遺伝子発現量に影響があることが示唆された.これは今回と類似した運動負荷によりSOLの方が筋衛星細胞の活性化が引き起こされたというDarrらの報告と一致している.また運動負荷によりPCNAの遺伝子発現量が減少することが示唆された.Robertson,Groundsらの報告によると筋を採取した運動負荷72時間後は筋管細胞を形成する時期と考えられ,この時期では細胞増殖が低下し筋特異的タンパク合成が活発である.これは増殖マーカーであるPCNAが減少し,筋管細胞への分化を調節するMyogeninが有意差はないが増加傾向にあったという今回の結果と相関していると考えられる.今後は運動負荷強度一定における遺伝子発現量の経時的変化や他の増殖マーカーとの相互時間的関連などさらに検討を加えたい.

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© 2008 日本理学療法士協会
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