抄録
【はじめに】
呼吸筋は呼吸機能を維持するだけではなく、姿勢制御に作用するとされている。臨床では姿勢制御機構が破綻している呼吸器疾患々者が多く観察され、そのような症例に姿勢制御機構を高める訓練を行うことで、呼吸困難感が緩和することを経験する。これらを背景とし、足圧中心点(COP)の前後方向の揺らぎを指標とした姿勢安定度と胸郭運動との関連性を検討したので報告する。。
【対象および方法】
対象は本研究に同意の得られた健常男性12名(年齢19.9±1.2歳、身長170.7±6.5cm、体重62.4±6.5kg)とした。胸郭運動は3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion Systems社)を用い、体表に貼付したマーカーから腋窩部周径上及び剣状突起部周径上における前後径と左右径を算出し、最大呼気-最大吸気の拡張差を指標とした。COPは床反力計(AMTI社)を用い、被験者の踵を基準点とした深呼吸時のCOPの前後方向の揺らぎを算出した。得られた値は、被験者の足長で正規化した。COPの前後方向の揺らぎは各々のデータから散布度を求め、その指標として分散を用いた。分散の小さいものほど安定度が高いと定義し、4名ずつを高安定群、中安定群、低安定群の3つに分類し比較検討を行った。統計処理は一元配置分散分析を用いた。
【結果】
COPの揺らぎの分散よる安定度の分類は、高安定群4.30~6.44、中安定群6.90~7.59、低安定群10.70~15.56となった。各群の胸郭運動の大きさを部位別に、高安定群、中安定群、低安定群の順で以下に示す。腋窩部前後径25.0±10.4mm、20.2±3.2mm、17.1±4.4mm、腋窩部左右径15.6±3.5mm、15.5±3.0mm、13.8±3.1mm、剣状突起部前後径26.9±13.6mm、18.3±7.2mm、19.1±2.8mm、剣状突起部左右径19.8±6.5mm、19.5±6.4mm、18.9±3.3mmであり、統計学的有意差は認めなかったが、高安定群、中安定群、低安定群の順で胸郭運動の減少する傾向が見られた
【考察】
今回の検討で、深呼吸時の身体動揺がより小さい群で胸郭運動は増加し、逆に動揺が大きい群で胸郭運動は減少した。これは姿勢を制御する能力が優れている者ほど胸郭の動きを大きくできるということであり、呼吸と姿勢制御の二重作用を担う呼吸筋の特性を裏付けるものである。臨床上、呼吸器疾患に対し姿勢制御訓練を主とした理学療法を行うことにより、胸壁のstiffnessが減少し呼吸困難感が緩和する例でみられるように、呼吸筋の姿勢筋活動から解放された機能の高まりを示唆する一つの結果であり、今後さらに追跡調査していきたい。