理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 22
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理学療法基礎系
室内の照度がバランスに及ぼす影響について
田頭 勝之玉乃井 謙仁青木 英次小駒 喜郎
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キーワード: 照度, 重心動揺, 健常成人
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抄録

【はじめに】大腿骨頸部骨折の発生状況を見ると、暗所における転倒により受傷する症例が散見される。転倒に関係するバランスについて、開眼及び閉眼時の重心動揺に関する報告は数多くなされているが、照明を暗くしていく過程における重心動揺に関する報告は少ない。今回、室内の照度がバランスに及ぼす影響について調査分析したので報告する。
【対象及び方法】対象は、調査の主旨を説明し、書面にて同意を得た男性の健常成人10名(平均年齢24歳)とした。デジタル照度計(アズワン社製)で室内の照度を1000、100、10、0ルクスに設定し、各照度における静止時立位及び立ち上がり時の重心動揺を重心動揺計(サカイ社製アクティブバランサー)にて計測した。測定は、明るい順に行い、照度を下げた時、暗順応を考慮して7分間の待機時間を設けた。静止時立位の測定は、両足を60度開脚し、重心動揺計上で5秒間静止した後に30秒間の静止時立位を測定した。立位保持中は1.5m前方の壁(高さ1.5m)の目印を注視するよう指示した。立ち上がり時の測定は電動昇降台に腰掛け、大腿骨軸は床に平行で膝屈曲100度を開始肢位とした。立ち上がりは、上肢の影響を少なくするため座面より下垂し、立ち上がり開始より15秒間を測定した。測定は各照度において2回実施し、その平均値を採用した。測定項目は、総軌跡長、外周面積、X及びY軸上での重心平均中心変位(X変位、Y変位)とした。統計処理は、「対応のある場合の母平均値の差の検定」を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】「静止時立位」の平均総軌跡長は、10ルクスに比べ0ルクスにおいて有意な延長を認めた。平均外周面積では、100ルクスに対して10及び0ルクスにおいて有意に高値を示した。「立ち上がり時」の平均総軌跡長は、1000、100ルクスに比べ0ルクスにおいて有意な延長を認めたが、平均外周面積、X及びY変位においては差を認めなかった。また、「静止時立位」及び「立ち上がり時」における1000ルクスの平均総軌跡長及び平均外周面積は、有意差はないものの100ルクスより高値を示した。
【考察】本調査の結果、10ルクス以下においては重心動揺が増大傾向となることが明らかになった。今回の調査では、暗順応した状態で測定したが、日常生活では照明のスイッチをonからoffにするなど急に暗い環境となるため、さらなる重心動揺の増大が考えられる。以上のことから、夜間、安全に屋内移動するには、100ルクス程度の明るさが必要であると思われる。また、1000ルクスの値が100ルクスに比べ高値を示したことは、立位保持した正面の壁が白色であり、反射グレアが生じたためではないかと考えられる。今後は、高齢者を対象とした調査を行い、若年者と比較分析し、転倒防止について考察したい。

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© 2008 日本理学療法士協会
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