理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 51
会議情報

理学療法基礎系
離床訓練終了時に肺血栓塞栓症を発症した2症例を経験して
下肢静脈環流に着目して
山田 耕平藤澤 和弘木曽 靖彦菅原 崇安岐 桂子出来 賢二表原 和明塩田 和輝中川 裕理本田 透
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】離床訓練後、肺血栓塞栓症(PTE)を発症した2症例を経験した。これらの症例でのPTE発生の原因を明らかにすることを目的に、健常男性の下肢静脈環流の変化を調べた。
【症例】症例1、49歳女性。自転車で走行中、2mの深さの溝に転落し、胸椎の脱臼骨折と胸髄損傷のため入院となった。受傷後15日目からギャッジアップを開始し、受傷後20日目Tilt tableの立位訓練を終えて水平位に戻ったときショック状態となった。症例2、68歳女性。原付バイク走行中、自動車と衝突し、右恥骨坐骨骨折のため入院となった。ギャッジアップは実施していたが、受傷後24日目から端座位を開始した。受傷後25日目車椅子乗車後、ベッド上の臥位に戻った時に意識昏迷状態となった。2症例とも肺血流シンチ、造影CTの結果PTEと診断され、下大静脈フィルター設置、抗血栓療法を施行され、予後は良好であった。
【方法】基礎疾患を持たない健常人男性26歳1名を対象とした。超音波パルスドプラ法にて1Tilt tableでの0°から60°までのtilt up / down、2臥床状態から下腿を他動的に下垂/挙上したときの右総大腿静脈の環流の変化を調べた。右総大腿静脈上にプローブを接触させ連続測定した。血流の測定は東芝社製APLIO XVを使用し、検査は熟練した臨床検査技師が行った。
【結果1】静脈還流は0°で持続性波形としてみられ極大流速は約40cm/秒であった。Tilt up開始後逆流がみられ、30°を通過したあたりから波形は消失した。60°に到達してから60秒後わずかに波形が出現し、極大6cm/秒の波形で定常化した。総大腿静脈径は0°で8mmであったが、60°では16mmであった。Tilt downを開始すると波形は徐々に大きくなり、15°から0°の間に急激に波形は大きくなり約120cm/秒の連続波が30秒間にわたって検出された。0°に戻って60秒経過後40cm/秒に戻った。
【結果2】下腿下垂後、極大流速は約20cm/秒の持続時間が短い波形で定常化した。下腿挙上直後、極大流速は約80cm/秒となり15秒で40 cm/秒に戻った。
【考察】静脈還流はtilt up時に停滞し、下腿下垂時にも著しく流速が低下する。これにより深部静脈血栓症が発生する危険性もある。これらの訓練終了時の急激な静脈還流の増大は、既存の未器質化血栓、あるいは新たに生じた血栓を中枢側へ流しPTEを発生させる可能性があり、2症例もこの機序でPTEが発生したと考える。また、tilt up時には総大腿静脈経が約2倍に拡大したことは、未器質化の血栓が静脈壁から遊離しやすくなる可能性がある。以上よりPTEは長期臥床後の離床時、立位歩行訓練開始時などに発生すると多く述べられているが、下肢を下垂する状態になる離床訓練後の臥床時にも注意が必要である。

著者関連情報
© 2008 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top