抄録
【目的】今回の研究目的は,頚椎症性脊髄症により,椎弓形成術を施行し運動麻痺が残存している症例に対してMTAによる介入を行い,随意運動の変化を確認することである。
【症例】被検者は頚椎症性脊髄症により当院へ入院し翌日,椎弓形成術C2~C7を施行した37歳,男性である。術前に出現していた感覚障害の改善は認められたが,弛緩性麻痺による左上肢機能の低下が残存し,手関節背屈の随意運動は認められなかった。ボタンの付けはずしなどの手指の巧緻動作が困難であり,握力低下(10kg)などによるADLの低下や仕事復帰への不安を訴えていた。術後9日間は,筋力トレーニングなどを施行したが,著明な改善が見られなかった。そこで、MTAによる介入を実施した。
【方法】MTA施行は,術後10日目から7日間の期間に2回実施し,1回目と2回目の施行期間を6日間あけることとした。評価は,1)施行前後・施行中における手関節背屈筋の随意運動の改善状況を確認する。2)施行前、施行中の握力を測定する。MTAの介入方法は,1)背臥位にて上肢を体幹側方に置き肘関節屈110°前腕回内位とし,施行者は手関節を保持し,手関節背屈に対する重力の影響を軽減させる。視覚にて確認させながら、長・短橈側手根伸筋に対してMTAの動的施行法を用いて手関節背屈の随意運動を誘発する。随意運動が出現してきたら,肘関節屈曲角度を110°から徐々に伸展させながら重力の影響を増加させ、手関節背屈の随意運動を改善していく。2)背臥位にて上肢を体幹側方に置き、肘関節伸展位にて握力計を把持し,浅・深指屈筋に対してMTAを施行しながら握力を測定する。
【結果】1)手関節背屈は,MTA施行前には随意運動の出現が見られなかった。それに対して,MTA施行中には随意運動にて手関節背屈が出現し,施行後には筋を刺激しなくても手関節背屈が可能となった。2)握力は,MTA1回目施行前には10kgだったが施行中には27kgと17kg増強し,2回目の施行前は27kgだったが施行中には32kgと5kg増強した。なお,1回目施行直後と2回目施行前の6日間は,握力の変化は認められなかった。3)MTA施行前は,ボタンの付けはずしなどの巧緻動作や食器の把持が困難であったが,施行後には即時的に可能となりADLの向上につながった。
【考察】今回,手関節背屈筋・手指の屈筋に対してMTAを施行したことで,随意運動の改善および筋力の向上が認められた。高田らがMTAでは固有受容器の刺激により,運動神経線維のインパルスが増加し,随意運動が改善すると述べているが,本症例においても同様の理由により随意運動が改善したと考えられる。握力は,術後からMTA施行前までの9日間及び,1回目と2回目の間の6日間は,変化がみられなかったが,1回目の施行直後は大きく増強し,2回目の施行直後にも再度増強したことを考えるとMTAは,末梢神経障害の患者に対して即効性があり有効的な治療手技だと考えられる。